悪魔がウチにおりまして・362
ウチには狐がいる。
さっきから妙に部屋をうろうろしている狐が。
この子は普段基本的に部屋の隅っこに座り、自分の趣味に勤しんでいる。
悪魔や羊、牛が暴れていても我関せず。
時たまクモと茶の湯を楽しんでいるくらいである。
だが、今日は落ち着きなく部屋の中を歩き回っている。
不穏だ。
不穏過ぎて声をかけづらい。
「クモ、狐ちゃんどうしたの?」
小声でクモに聞くと脚で狐を差すけど、考えたらクモの言葉わからないの忘れてた。
さっきからチラチラこっちを見ている狐。
尚のこと話しかけられないでしょうよ。
「ニンゲン殿、先ほどからいかがなさいまちた?」
それはこっちのセリフなんだよなぁ。
「狐ちゃん、お座んなさい」
狐、素直にフローリングに腰を下ろす。
なぜ、椅子に座らないのだ?
「ニンゲン殿、どうちました?」
繰り返すんじゃない。
「さっきから部屋をうろうろと。そんなに落ち着きのない子じゃなかったでしょう?」
「なんのことでしょう?某はいつもの通りですが」
あくまでもしらばっくれる気かい。
「なにか気になることがあるなら言いなさい。うろうろしてたら気になるでしょう」
狐は私の言葉を受けて、ふぅとため息を吐く。
「ニンゲン殿、某を見て何も思わぬのですか。思わぬのですね、このいけずっ」
なんかよくわからん誹りを受けましたが。
「某の姿を見て、お気付きになりませんか?」
頭にスリッパを乗せた狐を観察する。
……ふむ、分からん。
「ヒント、ヒント」
「……某は悲ちい」
ついに泣き出してしまう狐。
クモが何か差してるのはわかるんだけど……。
「ゴメン、こうさ……」
「あー、ごんちゃん!しっぽ増えたんですねー、おめでとー!」
悪魔が帰ってくるなりそんなことを言っているけど……しっぽ?
そういえばしっぽが3本に増えてる。
「み、ミミ殿……。ミミ殿ぉ」
狐は悪魔に抱き着いておいおいと泣き始めてしまった。
「どうしたですかー?ニンゲンにいじめられましたか?」
ゴメン、今回それ否定できない。
「せっかく、せっかく試験に合格ちて、ちっぽが増えたのに……。気付いてくれないなんて……」
状況を理解したのか、狐の顔のあと私の顔を見て可哀そうなものを見る目をこちらに向けてくる。
「ニンゲン、良い眼医者さん、紹介しますか?」
……くぅ!反論できない!




