悪魔がウチにおりまして・360
ウチには悪魔がいる。
包丁を研いでいる悪魔が。
悪魔が包丁を研ぐ。
そののっぴきならない状況のはずだが、包丁に頼るような弱い生き物じゃないから捨て置いています。
しょりしょりと砥石を当ててヒヅメで切れ味の確認をしている。
「まだ甘いのです」
再び包丁を当てていく。
「ミミ殿ー。さっきから何をちているのですか?」
狐がゲームのコントローラーを置きながら尋ねる。
クモは嬉々として狐の顔に墨を塗っていく。
……負けたのね。
「今度会社で料理大会があって。その準備ですー」
「あんたの会社、本当に仕事してるの?」
管理職が出る、料理大会ってそんなのアリ?
「失礼なー、ちゃんと業務なのですよー」
出たな、レッサー悪魔。
両手挙げて威嚇する前にちゃんと包丁を置いたのでスリッパは無しにしてあげましょう。
「ミミ殿、何を作るのです?」
確かに。
コヤツ、ウチではあまり料理しないから何を任されているのか想像も……。
「えっと、メケメケのローストと、メロー貝のアヒージョ、前菜にクラック草のサラダです」
……何ひとつ想像できないんですが。
「なるほど。それならばメインのソースはオムニエビなどこちてはいかがでしょう?」
「……さすがごんちゃん、その発想はありませんでした」
悪魔が手を打ちメモを取る。
「文字にはおいちいものをたくさん食べさせてもらいまちたから」
狐は遠い目をして涙をぬぐっている。
あのネズミ、西洋料理もいけたのか。
「むむ、専門外の料理人に負けるのはプライドが傷付きます」
なんならアンタ料理人ですらないでしょう?
「どうもー。言われた食材買ってきましたよ。ミミさんといい、羊さんといいなんでボクを使いっ走りにするんでしょ?」
のんびりと、巨大な袋を持ってくる牛。
「牛さーん!お駄賃は完成した料理の味見役で良いんです?」
やっすいな、手間賃。
「この食材を使った料理の味見でしょう?十二分におつりが来ます。コレ、領収書です」
牛は悪魔に紙きれを渡す。
「ありがとうございます。コレが無いと自腹になってしまうので」
……経費、落ちるんだ。
「ニンゲンも食べますー?忌憚なき意見をくれるなら食べさせてやるですー」
……ひっぱたいてやろうかしら。
ウチではビストロ・悪魔が展開される。
「これから30時間煮込みます」
「出前でも取る?」
今日食べられそうにないんですけどね。




