悪魔がウチにおりまして・35
歯医者にクモとネコがいる。
保健所に言いつけてやろうかしら。
「無理です、もう帰ります」
私の言葉にクモが猛烈に頷いている。
「どうしたんだい、ニンゲン」
「帰るなら歯を磨くように伝えるように」
ネコと歯医者は口々に言葉を飛ばしてくるが、そんなことはどうでもいい。
「なんでこうウチの周りに変な動物しかいないんですか」
「もしかして僕も変な動物に入ってる?」
「今、筆頭候補です!」
ちゃんと順位付けをすると角が立つから言わない。
私の中でクモが1番一般に近いと言っておこう。
「まぁ、ニンゲン。変な生き物に囲まれるキミも充分変だから」
「だまらっしゃい、保健所に行きますか」
「キミなかなかアグレッシブだね」
歯医者は余裕の表情で紅茶を啜っている。
「あなただけでも手一杯なのにこんなしゃべるネコ出てきたら退治したくなるでしょう」
「普通は逃げると思うけどにゃ」
「いきなりキャラ付けをするな!」
ネコの語尾が急に変わった。
ネコだからにゃーと言えば怪しさが消えると思うなよ。
「ならばニンゲン、ひとつ安心させることをお伝えしよう。キミの家に住むつもりはない」
「…よし、話を聞きましょう」
これ以上ウチに不思議生物が増えないというのならまだ…。
ここまで考えてなぜウチで引き取る前提で考えていたのかということに嫌気が差してしまったが。
「で、わざわざなんのために顔を出したんだい?地獄の」
「そう呼ばないでよ、堕天の」
「キミが僕のことを『堕天』と呼ぶからだろう」
2人は笑顔でいるものの話している内容は仲が良いようにはまるで見えない。
「あのー、もう帰っていいです?」
結局顔を出してきて場を乱しただけのネコに呆れながら扉に向かう。
「むしろキミを助けるために出てきたというのにご挨拶だねぇ」
「この歯医者さんに来なければいいことが分かったので。私は平和に暮らしたいだけです」
「言われているよ、堕天の」
「むしろキミにだろ、今の皮肉は」
ここに来て初めて歯医者の意見に同意せざるを得なかった。
『別に害を成すつもりはないよ。逆に治療が必要になったらよろしく』
歯医者はそんなことを言いながら何事も無いように見送ってくれた。
建物の外に出た瞬間、背中に汗がびっしょりだったことに気付く。
「クモ、あいつらどちらもやばいよね」
再び思いっきり頷くクモ。
来なければよかった。
これが偽らざる本音だった。




