悪魔がウチにおりまして・34
今は歯医者の前に居る。
withクモちゃん。
「行くよ」
肩に乗っているクモがこくりと頷いて背中にへばりつく。
一応ボディガードのていで来ているので隠れてもらう相談をしておいた。
歯医者の受付に入ると中には誰も居なかった。
「いらっしゃい。意外と行動派なんだね」
違った。
中にはちゃんといた。
正体の分からない、お兄さんが。
「そんな緊張しなくても平気だよ。取って食いやしないから」
歯医者はクスクス笑いながら、待合室のテーブルにティーカップを3つ出してきた。
3つ。
つまりクモの存在も気付いているということだ。
隠していても仕方ないのでクモもテーブルに上がってもらう。
「毒なんて入れてないよ。効かないのにもったいない」
効きますけどね?
「あなたも悪魔なんですか?」
私の言葉に紅茶を注ぐ手がぴたりと止まる。
「何が目的なんですか」
「目的…」
こちらに紅茶を出しながら、考えてる歯医者。
「目的、目的ね。キミは何を目的に生きている?」
「…関係ありますか?」
「大有りさ。僕に目的を聞くなら、キミも目的があってここに来ているんだろう?」
はぐらかそうとしている様子はない。
「わざわざ別の世界に来ることと、普通に生きることを一緒に…」
「一緒でしょう。ニンゲンも、悪魔も、天使も。神に造られ生きているだけの存在。だとしたら生きる意味を求めること自体が間違っていないかな?」
さも当然のようにこちらに説く歯医者。
クモは何気に2人の間に立って私を守ろうとしてくれていることがわかる。
やっぱりこの子は末永く世話しましょう。
「この子もそうだろう?普通に生きるつもりが結局神仏の楔に囚われてしまった。可哀そうに」
歯医者はクモに手を伸ばすとゆっくりと撫でている。
クモ、固まっている。
「キミも悪魔に魅入られた身なんだ。僕に会ったことが良いきっかけだよ。そろそろ…」
「あんまりイジメてあげるなよ、堕天の」
ふと声のする方向をみると、待合室の曇りガラスにぼんやりと影が透けている。
「このタイミングで正体をバラすかね、地獄の」
歯医者が窓に近づいて開くと、そこにはサビ柄のネコがお行儀よく座っていた。
歯医者にはネコが来た。
…お会いしたことありましたっけ。




