悪魔がウチにおりまして・32
ウチには悪魔がいる。
時たま人間に変身する悪魔が。
「そういえばだけど、狐ちゃんは人間になれないの?」
悪魔と狐がそろって歯磨きをしているときに声をかけると狐はくるりと振り向いた。
「ふぃふぃほのは、ろーるーらるあえふあら。おえあいあおえお、おえお」
「うん、まず口ゆすいでからね」
歯磨きしているときに話しかけた私が悪かった。
風呂場からクモが手ぬぐいを首にかけて戻ってくる。
「洗面器のお湯ちゃんと流した?」
クモは両手でマルを作る。
クモは最近洗面器風呂に凝っているのだ。
「ミミ殿は上級悪魔ですからニンゲンになれるのです。それがちは修行中ですので変化はまだできませぬ」
狐が戻ってくるなり先ほどの質問に答える。
割と聞き捨てならない言葉を発している。
「上級?」
「はい」
「これが」
「ニンゲン失礼ですよー」
悪魔が口を挟む。
そりゃ挟むか。
「だってアンタこの前歯医者で魂抜けてたじゃない。そんな子が上級って言われても」
「…ミミ殿?虫歯を撃ち滅ぼち首級を上げたというのは嘘でちたか?」
狐、信じるなよ。
「と、とにかく!こう見えてボクは偉いのです!ニンゲン!敬うのですー」
こう見えて、というあたり自分の立ち位置はわかっているようで。
ですが、これから行なうのはしつけデス。
「クモ、捕獲」
「こんばんはー。バケツプリンが手に入りました…のでぇ!?」
クモの糸の導線上に現れた羊。
哀れ、す巻きにされてしまうのでした。
プリンは頭の上に掲げていたので無事だった。
「そうなのですよー。この子上級職なのですが、なかなか威厳が出なくて」
羊の持ってきたプリンを皆でつつく。
歯の磨き直しになるが、致し方無いでしょう。
「早く立場に見合った雰囲気が出ると良いのですがねー」
クモ糸す巻き状態で腕だけ出してスプーンを動かす羊。
まず解きなさい。
…ここで聞かないことにしたことがある。
悪魔が上級で、この羊が上司なら、こいつはいったいどれだけの力があるのかということを。
ウチには悪魔がいる。
思ったよりも、とんでもない力を持っていそうな悪魔が。




