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悪魔がウチにおりまして・319

その日。

悪魔は思い出した。

忘れていた、恐怖を。


「あっ」

冷やし中華をすすっていた悪魔は、ハムを口にはむはむしていたときに突然声を上げる。

その声は、あまりにも唐突で自然だったため見逃してしまった。

そしてカタカタと震えだす悪魔。

ようやく気付いたときには悪魔の顔は真っ青であった。

「悪魔、どうしたの?喉に何か詰まった?」

「ニンゲン、それならボクはもう窒息してます」

うん、ボケにツッコミ返す余裕はあるっぽい。

「ミミ君?どうしたんですか?いまだかつて見たことのない顔してますが」

羊が言うならよっぽどの顔色なんだろうね。

「忘れていました……」

『何を?』

ウチに居た全員がハモってしまう。

「宿題」

「あんた、宿題くらいでそんな青ざめてたの?ねぇ、みんな」

大げさと思い振り向くと羊と牛が同じように真っ青になっている。

「み、ミミ君?なぜそのようなことを……?」

「ミミさん、きゅうり食べてる場合じゃないでしょう」

青くなりながらこりこりしていたきゅうりを牛にツッコまれる。

「おふたり、どうちたのです?そもそも宿題とは?」

狐、自分の冷やし中華にこっそり錦糸卵を追加する。

そうそう、宿題なんてウチらに関係ないわけで。

「そうですか……おふたりには関係ないのですね」

悪魔は冷やし中華のスープを飲み干すとビジネスバッグにいろいろ詰め込んで畳の中に飛び込んでいった。

「なんなの、一体」

牛が少し余った麺をザルから掬って自分の皿によそった。

「こちらの世界って、夏休みに宿題必ず出るんです」

「うん、地獄かな?」

「悪魔界ですが。で、その提出を忘れると簡単に首が飛ぶんです、物理的に」

宿題のペナルティ重すぎない?

「そうは言っても、出る量もたいしたことありませんよ?会社ごとに違いますけど休みボケしないように基礎トレやるイメージです」

羊の入れたフォローを聞いて納得した。

あの悪魔が監視のいないところでそんな地味なことやるわけがない。

絶対ない。

「つまり、ミミ殿は首ちょんぱなのですか?」

狐、表現がグロい。

「そうは言ってもまだ提出期限じゃないでしょうし。せいぜい島流しじゃないですか?」

牛、ビール片手に笑っている。

「あれ、悪魔からメッセージ」

スマホに表示されたメッセージを読み上げる。

『今日、ご飯は要りません。ちょっと関ヶ原行ってきます』


悪魔は時代を越えた。

宿題、忘れちゃいけないですねー。

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