クモがお世話になりまして
私はクモである。
こう見えて仏を志している。
修行の一環でこちらの世界で勉強してくるようになったのは1か月前。
まさかこんな状況になるとは思っていなかった。
修行というのは経験を積んで自分の限界を超えることなので必ずしも辛いことばかりではないとおっしゃられていた。
しかし、考えてみてほしい。
クモだよ?
クモがだよ?
なんでニンゲンの家で飼われてるのさ?
しかも家主様、めっちゃ優しいんだけど?
自分で言うのもなんだけどボクはこちらの世界では大きい。
あちらだとまだまだ子クモなんだけど、それでも自分が大きいことはわかっている。
そのためまず隠れ家を作ることを目標にしたんだけど、敵は多かった。
クモとして大きいかも知れないけど、こちらにはもっと大きい生き物がたくさんいる。
イヌやネコ、キツネ、タヌキ。
さすがにクマとは会わなかったけど、ここら辺の動物だけでも充分怖い。
お師匠さまから無益な殺生はしてはいけませんと言われている身だから、縄張り争いがそれになるか分からない。
元々の縄張りに入っているのは私だし。
お話しようと思っても、私がしゃべれないからあっちに伝える術がない。
それにみんな私見た瞬間にビビって襲ってくるし。
分かる。超分かる。
こんなサイズのクモ見たら逃げるか襲うかだわ。
山では隠れながら木の実とか拾って食べてたけど、他の動物に見つからないように探すとほとんど食べることが出来なかった。
ついに山の主(大きなイヌ)に見つかって山から追い出された。
悪いことは続くようで、そんなときに雨が降ってきた。
これも、仏になるための…そう思っていたけどやっぱり雨は冷たくて。
お腹も減ったし、寒いし。
ニンゲンに見つかるわけにもいかな…
「おっきいクモさんですねー。お名前は?」
…なんかに見つかった。
あれ?この気配は…。
「…一緒に来ますか?ニンゲンにはちゃんと話しますから」
悪魔とはわかっていたけど飛びついてしまった。
…まさかこんなに良い思いさせてもらうとは思っていなかった。
クモはお世話になっている。
悪魔とニンゲン、神代の狐に囲まれながら。




