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悪魔がウチにおりまして・309

ウチにはニンゲンがおります。

居るはずなのですが……。


「ニンゲン、ニンゲンー!」

ウチに帰るとミミさんの声が外まで響いています。

はて?

「ミミさん、いかがなさいました?」

部屋に入ると、ミミさんは洋服を掴んで泣いています。

「ヤギさん……。ニンゲンが、ニンゲンが……」

ミミさん、その服を着たいのですか?

「消えました」

……何を言っているのでしょう?

「ボクの目の前でいきなり泡になって、消えてしまったのです」

そんなことがあるわけないでしょう。

「本当です!いきなりしゅわしゅわーって!」

にわかに信じられませんが……。

「ホントクモー!ボクも見てたから間違いないクモー!」

クモさんが言うなら間違いないのでしょうが。

「なんでクモちゃんの言うことは信じます!?」

「日ごろの行いでしょう」

クモさんまで頷いています。

「ガッデェム!」

ミミさんに中指が無くてよかったです。

「でもニンゲンが消えてしまったのはなぜでしょう?」

私の言葉にミミさんはぴたりと止まります。

「本当です。これからこのウチの家賃をどうしたらいいのでしょう?」

心配するとことはそこでしょうか?

「ニンゲンがいなくなって寂しいクモー。ボク、どうしたらいいクモー」

クモさん、そんなたくさんの目で泣いたら干からびてしまいますよ。

「ヤギさん、こんなことできる者に心当たりありますか」

ミミさん、気丈に振舞っていますがニンゲンさんの服を手放さないことを見ると、クモさんと同じ気持ちなのでしょう。

その目は強い意志を感じます。

「……ひとりだけ。でも、もしその者の仕業だったらもうニンゲンさんは……」

ミミさんは唇をきゅっと結んでいます。

「わかっています。ニンゲンの仇を取りに行かないと」

「結構。では行きましょう」

畳を剥がして進みます。

ニンゲンさん、安らかに眠ってください……!


「という本を書こうと思うのですが」

「私を殺すなし」

「クモちゃん喋るのですか!?」

クモが喜んで跳ねている。うぱ、自分も出せとアピール。

「ヤギさん、さすがにこっちの内情明かしそうな内容はちょっと」

牛、冷静だなぁ。


ウチには羊がいる。

小説のアイディアに行き詰まっている羊が。

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