悪魔がウチにおりまして・289
『あなたはなぜそのような罪を犯したのですか』
『あなたにはわからないわ、ビル!恵まれた家庭に生まれたあなたには!』
『ミス・マケドニア。確かに私は神の元で生まれ苦労は知らないかもしれません。あなたは苦しみの中で生を受けたのでしょう。しかし、だからと言って悪魔と取引していい理由にはならない!』
「狐ちゃん、悪魔いないからってそんな映画見ないの」
「良いではありませぬか、プリースト・ピルは名作です」
冒頭の痴話げんかみたいなセリフは狐が見ている映画のワンシーン。
要するに悪魔祓いの映画らしい。
「このみす・まけどにあは残飯を漁って幼少期を過ごち、身分を偽って社交界に溶け込んだのです。ちかし、ライバルのるわんだに貶められ、再び路頭に迷うところでちた」
重いんだよ、子どもが見るには。
「そんなときにゴミの中から魔導書を見つけ、悪魔を召喚ちて自分を貶めた者たちを次々に……。そんな凶行を最後まで気付かずのこのこ現れたのがこのビルでちて」
探偵ものあるあるぅ。
「ちなみにこちらをご覧ください」
狐は動画を操作して悪魔と退治する神父を見せる。
「……羊だ」
「ですよね?」
これはひとつ本人に聞くしかあるまいて。
というわけで夜ご飯。
羊が来るのを待っていると汗をふきふき玄関から入ってくる。
「ただいまです、今日のご飯は刺身ですか」
クモが獲ってきた魚(出処は怖くて聞いてない)を捌いただけだけどね。
「ねぇ、羊。あんた映画出た?」
変に引っ張っても仕方ないので席に着いた羊に尋ねる。
狐はふんふんと鼻を鳴らしている。
「……どれのことです?」
何本出てるのよ。
「ヤギ殿、むーびーすたぁだったのですか?」
狐、目を輝かせて見つめている。
「昔から悪魔って需要あるのです。神様の力を誇示するために良い標的なのでしょう」
マイ湯のみで茶をすすりながらこともなげにイカの刺身をつまむ。
「この映画、まんまアンタなのは?」
ビルと戦っている羊。この風貌じゃ緊張感もありゃしない。
「大丈夫です、他の人にはちゃんと悪魔に見えています」
ほう、それなら安心……私も悪魔姿で居て?
「もう無理なんでしょうねー。あまりにも長く一緒に居たせいで、普通の人に向けたカムフラージュでは欺けなそうです」
嫌な慣れもあったものだ。
ウチには羊がいる。
これから映画を見るたびに画面に出てきそうな羊が。




