悪魔がウチにおりまして・288
私は夜道を歩く。
お姉を見届けての帰り道です。
「本当に送らなくて平気です?」
牛が心配そうに眉を寄せている。
「そんな遅くないでしょう、へーきへーき」
それだけ告げると、のんびりと夜の街を歩いて帰った。
こんな時間の繁華街を歩くのは久しぶりだ。
もともと出歩くのは好きじゃないし、ましてここ1年はウチにお腹を空かせているケモノがいるのを知っているんだ、寄り道なんかできない。
街を抜けると街灯がぽつぽつあるだけになる。
夕方と夜のはざま。
このふたつの時間が入り混じる様は……。
「げげげ……魂を、よこ」
大丈夫、なにも出てない。
歩いてたら消えるモノなんてこの世には存在しない。
後で靴を磨いておかないとなー。
家に着くとなにやら中が騒々しい。
狐と誰かが話しているのか?
こっそり窓の隙間から聞き耳を立てる。
「権之助さま、左様な調理など私が行ないますのに」
「文字それはなりません。某が作ることに意味がある。料理とは食べてもらう者への経緯を表すものと言っていたのはお前でしょう」
狐が、料理?
しかもネズミまで呼んで?
「そうは申しましても。権之助さまがおケガでもされたら主さまになんと申し開きをすればよいのか」
「ケガなど。それに何があってもかか様には某から説明ちますゆえ」
狐のお母さん、意外と過保護か。
「ちかし、宿主殿は喜んでくれるでしょうか」
「権之助さま、何故私を呼びつけてまで?」
それは確かに。
「ミミちゃんが同窓会に行って宿主殿はどことなく寂ちそうで。なにかするときにまずミミちゃんに気を配っていたので」
……ウソでしょ?
「少ちでも気が紛れてくれればと」
「あの者も悪魔にほだされたのですな。よろしい、権之助さま。私ができる限りの助力を致しましょう」
「かたじけない」
そっか、自分では気付いてなかったけど。
悪魔がいなくてそんなに寂しかったんだ。
今日は甘えさせてもらうね。
ウチには居候のケモノがいる。
結構、気を使ってくれるケモノが。
「……うすい」
「こちらの味付けは難ちいのです」




