悪魔がウチにおりまして・278
クモを探して三千里。
うん、大嘘吐きました。
「クモちゃん、分体の場所はわかりますか?」
悪魔が外に出ると早速クモに確認する。
クモは脚を頭に乗せて何やら念じているようだ。
すると1本、脚を立ててある方角を指し示す。
「あっちですー!」
悪魔と狐はクモに従い抱きかかえて進んでいく。
でもこの方角って……。
案の上、着いた場所は狐ビルディング。
まぁクモの姿形で迎える場所など限られている。
クモと会話できる者ならなおさらである。
つまりここに来た時点で容疑者は2匹。
羊か、牛か。
「なぜ某のビルに」
狐、目の前にしてわなわなと震えている。
「ヤギさん、まさかクモさらいなんて……」
おい、悪魔。
躊躇なく疑うんじゃないよ。
クモが脚を指し示す方向に進んでいく。
その表札に書かれた文字を確認する。
私たちは頷き合うと扉に手をかける。
カギはかかっていない。
音を立てぬように開いていく。
「そうです、その調子です……」
中からひとつの声が聞こえてくる。
クモ分体の様子は見えない。
「手を上げるですー!」
悪魔がひとり先走り、奥へ突き進む。
「あれ?皆さんお揃いで?」
そこには両手に糸を通している牛がいた。
「この子から頼まれたんです。少しでもクモさんの役に立ちたいって」
どうやらこの早朝外出は牛のところで何かできることないのか請われたことが理由らしい。
「働くにしてもこの子クモでしょう?糸なら卸せるんで」
本体の糸は高値で売れるのは前々から聞いていたけど、分体の糸も値段一緒とは。
「それなら言ってくれればいいのにー」
クモの言葉を代弁するように悪魔が分体を撫でる。
「どうやら、クモさんにプレゼント買いたかったらしいですよ」
曰く、いつも分体たちの世話をしているクモは自分のことをほったらかしにしているらしい。
感謝の気持ちを込めたプレゼントを渡すため内緒で働いていたのだ。
クモとクモ分体、抱き合って泣いている。
いい話ダナー。
「それはそれとして。クモの飼い主は誰だったっけ?」
「ぎく」
ちゃんと世話しないなら牛さんにあげちゃいますよ。
「押し付けるの、止めてもらえません?」




