悪魔がウチにおりまして・275
ウチには悪魔がいる。
もしかして、夏が初めての悪魔が。
「ニンゲン、夏休みが欲しいのです!」
ほわい・あくまーず・ぴーぽー?
いかんいかん。今たわ言を抜かしている悪魔は1匹。
つまり複数形を使ってしまうと私がバカと思われて……。
「ニンゲン!絶対失礼なこと考えてるです!ボクわかるです!」
失礼、失礼とは何かを求めるために私はアマゾンの奥地に……。
「ニンゲン!無視するなです!泣くですよ、泣くですよぉ!?」
本気で涙ぐんで脚をゆさゆさし始めたのでからかうのはこれくらいにしましょう。
「夏休みって会社からもらうものだけど?」
お水を飲みながら悪魔に向き直るとぴたりと半泣き声は止まる。
「かいしゃ」
「アンタも一応会社員でしょ?申請したら?」
「しんせい」
悪魔は目を丸くしている。
なんだ、このリアクション。
「つまり、こちらの夏休みとは、有休、なのですか」
重苦しい声で尋ねてくる。
有休と言えば、有休か。
「広い意味ではそうなるかもね」
答えると、その場でぶっ倒れる悪魔。
「ほっとくか、介抱するか」
悪魔の変な行動にいちいち驚いていたら身が持たない。
持たないのだが。
「どうしたのー、悪魔ー?」
有休という言葉でここまでアレルギーを起こすんじゃ少しばかり気になるじゃない。
「今日の晩御飯は……やや!?ニンゲンさん!毒を盛りましたね!?」
来るなりご挨拶な羊。今日のお茶碗はおからで埋めてあげましょう。
「ミミくーん。どうしましたー?」
ヒヅメでぺしぺし叩くとむくりと起き上がる。
「ヤギさん。ボクは夏休みが取れません」
「ほう?」
横から話を聞いていると年間50日付与される有休は使い切っているらしい。
マテ、50日ってなんだよ。
「ミミ君、良いですか?夏休みというのは休むだけではありません。実はセットで宿題が出されます。もしぶっちすると減給半年になる代物です。だから皆取らないのですよ?」
羊、それ絶対でまかせでしょー……でまかせだよね?
「なんだぁ!それならちゃんと好きな時に有休してるボクが賢いのですねー」
羊の言葉に悪魔は安心したのか風呂へ向かっていった。
ウチには悪魔がいる。
労働環境が明らかに天国な悪魔が。
「有休の付与って、年始なんですけどね」
計画性はない悪魔と言い換えましょう。




