悪魔がウチにおりまして・26
ウチには不思議な動物たちがいる。
そろそろキャパオーバーですよ?
「本日よりお世話になります。それがち、ごんのすけともうちます。以後お見知りおきを」
狐は笠を脱いで三つ指を付いてお辞儀をする。
ついつい合わせてお辞儀を返してしまい、倣ってクモも同じようにぺこりと頭を下げる。
「ごんちゃん、そんな気を使わなくていいのですよー。ほら、楽にして」
悪魔が崩すように促すと狐はほっとした顔を上げるが、すぐにきりりと引き締まる。
「いえ、それがち居候の身。御厄介になるのなら立場を弁えねばなりません」
「いつまでも気を張っていたら身が持ちませんよ。ね、ニンゲン」
アンタはもう少し気を張りなさい。
同じ居候の身だろうに。
「あね様、お掃除終わりまちた。次は何をちましょう!」
狐はさっそく畳を拭き上げるとすぐに次の仕事を聞いてくる。
いい子はいい子なんだけど、ちょっと焦りが見える。
「やや、天井にクモの巣が。あれもお掃除いたちます!」
綺麗な畳に感動していたクモが狐の言葉に飛び上がる。
我が家を壊されまいと必死にしがみついている。
可哀そうだからやめて差し上げろ。
「ねぇ、悪魔。あの子昔からあんな感じ?」
「んー、言っても遊んでいたのは100年以上前ですからねー」
時間の感覚が違いすぎて話にならない。
失敗は無い。
だが少々空回り気味である。
「狐ちゃん、なんでそんなに焦ってるの?」
「…それがち、早く立派な狐にならねばいけないのです」
小さな姿には似合わない、暗い顔。
そりゃ私より長生きなんだからいろいろ経験しているでしょうけど、あまりにも楽しくなさそうじゃない?
「ねぇ、狐ちゃん。そんなにウチに居たいの?」
「修行の一環ですので!」
一切の曇りなく、こちらを見据える狐。
「それなら決まり事。ウチに居たいなら楽しむこと。あの悪魔を見なさい。居候なのにどんぶり3杯メシ食べるんだからあなたも気楽に」
「…いいのですか?」
「こっちまで堅苦しくなっちゃうから。でも修行は修行、ちゃんとやんなさい」
「あね様!」
ぴょいんと狐は抱き着いてくる。
ひっくひっくと泣いている。
いいんだよ、無理しなくても。
なぜか悪魔がうんうんと頷いている。
あんたは少し弁えなさい。
ウチには狐も居る。
ちょっぴり早く大人になりたかった、仔狐が。




