悪魔がウチにおりまして・257
ウチには悪魔がいる。
水鉄砲を構える悪魔が。
「ニンゲン!プールに行くのです!」
「はい、行ってらっしゃい」
手をひらひらと振ると、悪魔が絶妙な顔をする。
わかりやすく言うと、目を丸くして口をだらしなく開けている。
「ニンゲン?なぜです?これだけ暑いのですよ?夏なのですよ?涼みたくないのですか?」
気温は夏だけど、まだ6月。
野外プールは空いてないのだよ。
「……宿主殿、さてはプール苦手ですね?」
かき氷をしゃくしゃくしていた狐が横目でつぶやく。
キミのような勘のいいケモノは嫌いだよ。
「なぜです?冷たいのは正義ですのに」
雪を嫌いな悪魔から出る言葉とは思えませんな。
「ミミ殿、ああ見えて宿主殿、は女の子。つまり肌を晒ちたくないのでしょう」
狐、みなまで言ってはいけません。
人には隠しておきたいことがあるのです。お腹の肉とか!
「ニンゲン、太っているのですか?」
つぶらな瞳で、悪意無く尋ねてくる悪魔。
狐がかき氷を落とした。
ゆらりと立ち上がり、悪魔に近付く。
殺気を感じたのか、悪魔は逃げ出そうとするが、クモが糸を吐きかけて拘束する。
ナイスアシスト。後でちりめんじゃこをあげましょう。
「悪魔さん、座りなさい」
「座ってます」
悪魔、顔が真っ青。
「良いですか?物事を素直に表現できることは素晴らしいと思います」
「目が誉めてません」
狐がどこから取り出したのか、仏壇のちーんを鳴らしている。
「悪魔さん、とりあえずその糸は切れますか?」
「切れません」
悪魔は両手を広げようとするが、糸は強く少しも緩みもしない。
「よろしい。明日までそのままです」
「そげな!?」
狐は雑巾でかき氷を拭いていた。
「それでご飯抜きですか」
羊がミートボールを突きながら縛られて恨みがましい目をしている悪魔を見つめる。
牛はわざわざ目の前で食べてるし。相変わらずいい性格している。
「ミミ君は空気が読めるんだが読めないんだか」
「オデ!メシ!欲しい!」
「悪魔ー。変なキャラで居るなら延長するよー」
「ゴメンナサイ」
ウチにはクモがいる。
ちりめんじゃこを美味しそうに食べているクモが。




