悪魔がウチにおりまして・253
ウチには狐がいる。
書類の束に頭を抱えている狐が。
「狐ちゃん、どうしたの?」
狐が帰って来るなり畳に突っ伏して寝込んでしまう。
「大変です」
それは見たらわかるのよ、何が大変か聞いててね。
狐は顔をあげることなく、手にした書類を渡してくる。
「何々?『来季にピーーー円使うこと』……えっ?」
あまりの金額に書類を二度見してしまう。
「某の会社もぽんちゃん農場から仕入れまして」
あのモグラの野菜、大人気なのね。
そこからというもの、事業計画書以上に売り上げが伸びに伸びた。
それは喜ばしいことなんだけど。
「税金とは恐ろちいです。書いてある額を使わないとそのまま没収になるみたいでちて」
没収という言い方はよろしくないが、実際狐からしてみたらそんな感覚なのだろう。
「しっかしずいぶん頑張ったのね」
「ヤギ殿と売っているものを分けて、食い合わないようにちました」
ちゃんと考えてやってる……。
「ちかし、この額を仕事で使うとなると」
そりゃ頭抱えるよねー。
「今日のご飯は……あれ?おふたりどうしました?」
牛がビール片手に帰ってきた。
「兎田殿。お金を使うにはどうすればいいでしょう?」
狐は涙を浮かべながら牛に縋りつく。
牛は迷惑そうに足を振っているが、狐は離れない。
「なんなら別事業始めたらいいじゃないですか、バーとか」
「ばぁ」
狐が泣くのをやめて、牛をじっと見ている。
「……その目は何を意味しておるでござる?」
牛の口調がおかしい。
「そのような提案をいただけるということは、もちろんお手伝いちてくれるので?」
「どうしてそうなるんです?ボク、こう見えて忙しいんですが」
露骨に迷惑そうな顔をしている牛にまた涙目で見上げている。
牛に泣き落とし、効かないでしょうよ。
「そこをなんとか!これで!」
狐は牛に通帳を見せる。
牛、二度見。牛がビビるってどれだけなのよ。
「そこまで言うのであれば仕方ありません。ですが、ボクひとりです?」
「従業員は雇っていただいて構いませんので!」
狐と牛、ぎゅっと握手。
ここに狐族と悪魔の提携業務が誕生した……。




