悪魔がウチにおりまして・234
ウチには牛がいる。
何やら真剣に悩んでいるようですが。
牛がわざわざウチの家の真ん中で腕を組み目を閉じている。
大きな体で部屋の中に居られると結構邪魔なんだが。
「ニンゲンさん、私、今悩んでまして」
見ればわかる。
「今日の晩御飯を担々麵にするか、麻婆ナスにするかなんですが」
「どうでもええわ」
あまりにもあまりな悩みで思わず口に油が乗ってしまった。
「どうでもよくないです。このふたつを決めないと晩御飯が食べられないのですから」
若干構文みたいになっている。
「なんでそんな似たようなもので悩むのよ」
「似たようなものだから悩むのです。かけ離れていたら決めやすい。桃を食べる時白桃と黄桃で悩んだら、なかなか決められないでしょう?」
私はその桃ふたつの区別が付かないのですけど?
そのとき畳が少しだけ空いて、ナスが置かれた。
犯人はあのモグラだろう。
「麻婆ナスでいいんじゃない?」
置かれたナスを指さしながら言うと牛は眉をひそめた。
「このナスを使えと?普通に怖くありません?」
ごもっとも。
部屋に置かれた身元不明ナス。
怖いけど出所は大体わかる。
それならウチの食卓で使いますね。
再び畳が少し開く。
そこには竹の皮に乗せられたひき肉が置かれた。
ねぇ、なんの肉?
「じゃあこれで担々麵作りますか」
「肉は少し怖い」
「……その境がわかりませんが」
牛は頭を下げて肉を持って行った。
牛が居なくなった後、畳からモグラが生えてきた。
「お肉は気に入りませんか」
「やっぱりアンタか」
「せっかく良い肉を仕入れましたのに」
本当になんの肉?
「あの肉は希少部位でして。1頭から250グラムしか取れないというのに」
「種類を言いなさい、種類を」
モグラは目をさっと反らした。
「……聞かぬ方が身のためかと」
「ねぇ、食べて平気なの?」
その質問には答えず、そのまま畳に消えていった。
「ぽんちゃんがお肉持ってきたのですね」
「ねぇ、なんの肉?」
「いやー、牛さんラッキーですねー」
悪魔も目を逸らして答えてくれない。
ウチには悪魔がいる。
ねぇ、なんの肉?




