悪魔がウチにおりまして・231
地獄巡りの帰り道。
火の車で送り届けてくれるそうな。
いつの間にか牛は合流していた。
どこに行っていたのかなど野暮なことは聞いていない。
何を話したかは気になるけどはぐらかすだろう。
帰りのバスにはお歯黒ではなく閻魔が乗っていた。
「なんで?」
「たまには羽を伸ばしたくて。どうせ帰ったら罪人の判を押す仕事に戻るのだから」
ずいぶんと呑気な閻魔様も居たものである。
「えんちゃん、こっちに遊びに来るのですか?」
悪魔はさきいかを頬張りながら閻魔に尋ねる。
相変わらず、距離感のおかしなことで。
「そうしたいのはやまやまだけど、均衡が崩れちゃうから」
閻魔は頭の後ろで腕を組むと伸びの体勢で座席をリクライニングする。
本当にサボりに来やがったみたいだ。
「そういう体勢になるということは、ミミさん、ヤギさん!手足を掴むのです!」
「え?なになに?」
牛の号令と共に悪魔と羊が閻魔の手足を羽交い締め。
牛は下劣な笑みを浮かべながら手に持っているあるモノの蓋をきゅぽんと開けた。
「このようなところで油断したのが運の尽き……。地獄の当主たる自覚が足りません」
待って、牛。
その手に握られているのは、まさか!
「さぁ、おでこを晒すのです。三つ目になるがいいか、肉がご所望か。それくらいの選択は差し上げましょう」
牛は油性ペンを閻魔の目の前で振ると、額に近付けていく。
「く……。悪魔め!」
「誉め言葉です。選ばぬということは、両方がお望みのようですね」
「や、やめろぉ!」
閻魔の断末魔が響く。
「宿主殿、こぶちゃ飲みます?」
狐、キモ太いなぁ。
「ウーロン茶はない?」
「地獄観光ありがとうね、また来てくれると嬉しい」
額に留まらず、顔がインクで真っ黒に染められた閻魔が笑顔で手を振る。
器、大きすぎるでしょ。
「頑張って地獄も良い地獄にするからねー」
良い地獄とは一体なんだろうか。
「しかし牛、あれはやりすぎでしょう」
「昔、全身の毛を刈られた分ですので」
……。
牛さん!?




