悪魔がウチにおりまして・222
羊が飛び込んできた。
「小説の!ネタが!ありません!」
相当追いつめられているのね。
「ちょっと、羊?悪魔いるけどいいの?」
「良いのですー。印税3割で手を打ってますので」
ジーザス、資本主義。
まぁ遅かれ早かれバレていたでしょ。
「ヤギさんの小説はいつも楽しいのです。でもなんでそんなに荒れてるんですか?」
「ミミ君のファンレターは憩いでした……実はですね」
どうやら、最近担当が変わったらしい。
羊の小説は書き下ろしで毎回作風の違うため、今作初めてその担当と仕事をしているのだが。
「不治の病とか!人が死ぬとか!そんな安い感動の押し付けで売れるなら今の世の中小説がバンバン売れているでしょう!」
止めろ、羊。
それ以上言うと別の意味で人が死ぬ。
「ヤギさん、人間関係を大切にするドラマが素晴らしいので。どうぞ」
悪魔ビールを差し出す。
出すな、出すな。
「んぎゅっんぎゅっぷはぁ。どこぞの作家が『普通に書いてたらみんな死んじゃう』なんて宣ってましたが、それは技量不足。生かしなさいよ、せっかく出てきてくれたキャラクターを」
良い飲みっぷり。
じゃなくて、その言葉で心臓を捧げそうになる奴がいる。
止めて差し上げろ。
「ねぇ、羊。担当さんともっと話し合ってみたら?死ななくても済む方法、あるかもしれないよ?」
自分で言っていて頭がくらくらするが仕方ない。
「いいえ、あの堅物は口を開けば殺せと言うのです。我慢なりません!ミミ君、ビールおかわり!」
荒れてるなぁ。
悪魔、差し出すな。
「……それならー」
後日、羊の新刊が発売された。
タイトルは「死しても分かれぬふたり」
内容は、交通事故で死んだ夫婦が黄泉の国をさまよい、そして生き返るまでのストーリーだった。
「どうしても殺したいなら、最初から死んでいればいいのです」
コロンブスの卵と言うか、屁理屈と言うか。
「ミミ君、助かりました。今回の担当とはこれきりでお願いを……」
その時、羊のスマホが鳴る。
「お世話になっております。えぇ、えぇ……。えぇ?続投、ですか?ですがこれきりというお願いを……重版?はい、はい……よろしくお伝えください……。売れ過ぎました!」
羊は鳴いている。
久しぶりに「やぎー」ってね。




