悪魔がウチにおりまして・22
ウチには悪魔がいる。
…悪魔だけのはずだったんだけどなぁ。
朝、日も登らぬ早朝、ドアを静かに叩く音で目を覚ます。
こんな早くから来る客はろくなものではない。
今回はコハクセンサーが発動していないので出なくてもいいだろう。
しかし、一定間隔でコンコン、コンコンとドアを叩くことを止めないしつこい来客は出るまで帰るつもりがないようだ。
…出るしかないか。
ドアスコープから誰が居るのかと覗くが、誰もいない。
というか、叩いている位置、低くない?
ドアを開けるとやはり誰もいない。
「おはようございます!」
目線を下におろすと、編み笠が置いてあった。
「お初にお目にかかります!それがち、ごんのすけと申す者。ここにおられる客分にご挨拶を…」
「誰ですかぁ、こんな早く…ごんちゃん!うわぁ、ごんちゃんですー!ひさしぶりー!」
目を擦りながら押し入れから這い出してきた悪魔の目が一気に開く。
そうかい、またアンタの関係者かい。
編み笠が話しているように見えたのはあまりに小さく、笠に隠れていたためだった。
本体、狐。
しっぽ、2本。
もう驚きゃしませんわ。
不思議生物系がどれだけ盛り上がっても他の人に声が聞こえないことは実験済みなので、布団に潜って放置をすることにした。
「しかし、ごんちゃんも立派になりましたねー」
「いえいえ、それがちやっと修行を許された身。ミミ殿がお近くにいらっしゃるということでご挨拶に伺った次第でして」
「しっぽも増えて…頑張ったんですね。あ、粗茶ですが」
「かたじけない」
2匹のケモノはずずーっとお茶をすする。
アンタが買ったわけではないお茶をへりくだるんじゃない。
「ねぇ悪魔、この子誰?」
好奇心に負けて首だけ出して尋ねてみる。
「ごんちゃんです」「ごんのすけともうちます」
「そういうこと聞いてない。またあっちの世界の子?」
聞くまでもないことだが、地味に悪魔の顔の広さに関心してしまう。
「ですです。ごんちゃんはこの近くの社に住んでて。昔は一緒に地蔵飛ばしとか、サルスベリ上りとかして遊んだんです」
「み、ミミ殿!そんな不敬な遊びはとっくに卒業いたちました!」
やっぱり罰当たりだったのか。
そして悪魔よ、気付いているのか。
その幼少暴露、この前羊にやられて顔を真っ赤にしていたことを。
「あ、クモ。起きたの?」
クモが壁を伝いおりてくる。
目を擦りながら降りてくるなんて器用な。
「…あなた様がこんなところに!?」
狐が目を丸くする…コレ、クモよ?
ウチには…。
ウチは動物園じゃないんだけどなぁ…。




