悪魔がウチにおりまして・220
ウチには牛がいる。
モニターと、ドライブを持ち込んできた牛が。
「いやぁ、さすがドコ・ダッケー監督の作品です。ギャグのくだらなさが違う」
1.5コーラをラッパして、デカいポテチを食みながら牛はわざわざウチで映画を見ている。
クモもなぜか付き合わされていたのだが、徐々に目が輝きに溢れていた。
「クモさんもこの良さがわかりますか。今度吹き替えで見ましょう。実はこの映画は吹き替えのセンスも素晴らしいのです」
エンドロールを眺めながらクモは嬉しそうに頷いている。
「クモさんは字幕でよく見るようですが、本当の映画好きであれば2回見ないと。字幕を流しつつ吹き替えを楽しむ。それが2倍にも3倍にも楽しむ方法です」
牛が映画好きなのは意外であった。
ただ、ウチで見なくてもいいだろうに。
「誰かと映画を見て感想を言い合いたいときもあるんです。昔はよかった。入れ替えが無かったので朝からずっと映画館に居れたものです」
「それ、楽しいの?」
要するに同じ映画何回も見るってことでしょ?
「ニンゲンさん、何かを学ぶとき1回ですべてを得ることはできるでしょうか。1回目は筋書きを。2回目には伏線を。そして3回目には感情を見る。これが正しい映画の見方というものです」
牛の言葉にクモは拍手を送っている。
この数時間で仲良くなりおって。
「……疲れない?」
「疲れます」
疲れるんかい。
そこは好きな物ならって応える場所でしょうに。
「この年になると目が。でも走るのが好きな人が足が痛いと走ることを辞めるでしょうか?麻雀が好きな人は指紋が消えても打ち続けるものです」
ごめん、たとえがよくわからない。
「ニンゲンさんは、中毒を知らないのですね」
いきなり声が増えていてのけ反る。
畳からモグラが顔を出していた。
「ぽんさん。あなたも映画好きですか」
「ボクはメジャーしか追っていませんが。映画は2時間で納まっている人生。最近の映画は長すぎます」
その言葉に牛はゆらりと立ち上がり、モグラの半分出た頭にヒヅメを差し出す。
モグラは無言で握り返す。
何なのだ、この空気。
「てかさ。映画ってそんなにそっちに影響与えてるの?」
「何を言ってるのです?」
「ボクたちの世界にアクセスしたニンゲンたちがモデルに作ってくれた芸術。敬意を払わぬわけがないでしょう」
要するに、そっちの影響を受けて映画になってるってこと?
ウチが映画館になっている。
この映画、意外と面白いわ。




