悪魔がウチにおりまして・216
ウチには悪魔が居る。
現代文明に馴染んでいる悪魔が。
「ニンゲン……。スマホが壊れました」
悪魔が物悲しい顔を浮かべて報告してきた。
「……バックアップは」
「ありません」
「パスワードのメモは」
「してません」
「大切なデータは」
「全部PCです」
セーフ!悪魔、セーフ!
ギリギリダメだと思ったよ!
「それなら安いの買いなさいよ。あなたはどうせ動画見るくらいしか使ってなかったでしょ?」
契約を悪魔本人にしてから課金しているのかは知らないけど。
「違うのです。写真、全部飛んじゃったのです」
悪魔は目に涙を浮かべてすり寄ってくる。
少々鬱陶しい。
「写真?そんなに撮ってたの?」
「あい、みんなとの大切な思い出です」
曰く。
スマホを買ってからこっち、あっち問わずみんなで出かけたところや食べたものの写真を撮っていたらしい。
「ニンゲンも神ちゃんもごんちゃんもくもちゃんも。みんなみんなとの大切な記念が全部消えてしまったのです」
ついに悪魔は泣き出してしまう。
ゲームデータが飛ぶことではなく、思い出が消えてしまったことにこんなに悲しむとは思ってなかった。
「悪魔、消えちゃったのは仕方ないじゃない。印刷とかは?」
「印刷方法が分からなくて……」
そこは覚えようよ。
「それに今から覚えても戻ってこないのです……」
大粒の涙をこぼしながら悪魔はクッションに突っ伏してしまった。
「おや、ニンゲンさんにいじめられましたか」
悪魔が泣いているところに羊がひょっこり顔を出した。
「そんなことしたこと無いでしょう」
「……そのことについては皆さまの判断に委ねます」
おーい、いついじめたよー。
「ミミくん、早急にスマホを買い直せばいいじゃないですか」
「だって、だって、思い出が……」
羊は呆れた顔でため息を吐く。
「あなた、どれだけの写真をグループに投稿してるか、忘れてます?」
羊は自分のスマホを見せると「ミミ・写真」と書かれたページを開く。
879件。
スマホ与えて半年よね?
「これだけ投稿してれば、ほとんどあるでしょ……」
「すまほー!!!」
言うが早い、悪魔は玄関から飛び出していくのだった。
「こういう投稿もバカにならないのですね、よかった」
羊ー?いついじめたー?




