悪魔がウチにおりまして・203
ウチには羊がいる。
神妙な顔で、うつむいている。
「なによ、また神ちゃんからの贈り物?」
羊が気落ちするなんて、最近そんなことしかないだろう。
「最近は1週間に1回に落ち着きました」
それでも週1来てるのかね。
でも、それならなんでそんな落ちてるのよ。
「つかぬ事をお聞きします。ミミ君は今居ないですよね?」
「うん、昼間だし」
なんで私家に居るのか?
ついにわが社にもテレワークが導入されました!
「それなら気兼ねなく。……アイディアが、尽きまして」
なるほど?
すっかり忘れてたけど、コイツ小説家でもあったのよね。
で、悪魔はコイツの小説のファンだった。
そんな小説のアイディアが尽きたってそれは問題だ。
「てか、悪魔の小さい頃の話、焼き増して書いてただけじゃなかった?」
「それはデビュー作だけです。今はちゃんとトンデモミステリを書いてます」
書いてる本人がトンデモっていうの、そこそこレアな気がしますけど。
「で、アイディアが尽きたって?」
私はせんべいをかじりながら話を聞く。
まともに聞いていても碌なことじゃない。
「ええ。さすがにいくらあちらの常識を持ち込んでも限界。こっちで苦労した話も面白く書くにはブラック過ぎまして」
あっちの悪魔が跋扈する世界よりブラックなのかよ、ニンゲン界。
「締め切りまであと1週間。のこり3万文字。もはや修羅場なのです」
うわぁ、地獄ー。
ぺりんとせんべいをかじる。
「とても、他人事に見えるのですが」
「実際他人事ですから」
羊は歯ぎしりをする。
「唯一相談できる相手だというのに!」
「担当に聞きなさい」
「あやつは!誤字脱字の指摘しかせず!アイディアなぞひとつも出したことなど!」
荒ぶってるなぁ。むしろ添削めっちゃ大切な気がするけど。
いつもお世話になってます。
「だったらランニングでもしてみれば?走るとアイディア出るかもよ?
「……試してみます」
羊は不承不承外に出ていった。
夕飯の時ニュースが流れた。
「ご覧ください!このような流れ星はいまだかつて観測されたことがありません!」
「不思議なこともあるものですねぇ、ねぇ、ニンゲン」
「そうね」
……何しても目立つんだよなぁ。




