悪魔がウチにおりまして・2
ウチには悪魔がいる。
ちゃぶ台の向こう側でご飯の上に納豆を乗せて、海苔を巻いている悪魔が。
「ニンゲン」
「何、悪魔」
「このねばねば、どう作るのですか?」
悪魔は不思議そうに納豆の糸を引きながら聞いてくる。
箸をくるくると巻いて糸を切ろうと必死だ。
「大豆をワラに詰めるしか知らない」
「…つまり、このねばねばは呪い…!」
「…呪い?何を言って…あぁ、そういうことか」
納豆は伝わっていなくても、ワラ人形は伝わっているのかと納得してしまったのでなんか負けた気がする。
「ニンゲン、今日はお酒飲まないのですか」
「いつも飲んでいたら次の日しんどくなるから、今日は休肝日」
「そうですか…」
心なしかしょんぼりとした様子。
「飲みたいなら勝手に飲んでいいよ、冷蔵庫の中にあるでしょ」
「ニンゲンが我慢してるのにひとりで飲むのは気が引けます」
冷蔵庫をじっと見ながら、チラっチラっとこちらを見る。
気にしないふりをしていたら、泣きそうな顔で納豆巻きを食べ始める悪魔。
3秒に一回冷蔵庫を見ている。
「…一本だけね」
途端表情が明るくなり、冷蔵庫からビールとグラスを2個持ってくる。
ウチには悪魔がいる。
人に酒を勧めてくる、悪魔が。
「そろそろ寝るよー」
「あいー」
悪魔は押入れを開けると短い手足を伸ばして押入れの2段目に上る。
どれだけ力があるのだろう、上の段を掴めばグイっと上っていく。
「重力、どうなってるの?」
「地球のルールですから」
深く触れてはいけないのだろう。
「でもわざわざ押し入れで寝るの?布団敷けばいいじゃない」
「居候は押し入れで寝るのが伝統では?」
そんなことはない。
というか、未来ロボットだけじゃないか、押し入れで寝ているのは。
「ニンゲン、おやすみなさいー」
「はい、おやすみ」
挨拶を済ませると自分で襖を閉める悪魔。
ヒヅメの付いた手なのに器用なものである。
「ねえ、悪魔」
「なんですか、ニンゲン」
なかなか寝付けず声をかけてみると悪魔も起きていたようだ。
「あんた、いつ帰るの?」
「もう少し、ここに居てはだめですか?」
「…さっさと帰りなさいね」
この家には悪魔がいる。
居候なのに、追い出す気にならない、悪魔が。