魔界の揺らぐ夜
魔界。
悪魔たちが住まう(本来)ニンゲンは足を踏み入れることが適わぬ地。
いつも通りソロモンが執務室で書類に目を通していると、無遠慮に扉が開いた。
「ノックくらいしたらどうだね、堕落の」
「ボクの脚で扉を叩く方が無礼かと思ってね、ソロモン卿」
目の前にいきなり現れたサビネコにソロモンは背中に汗を流す。
キチンと扉を開けている以上、即敵対の意志は無いにしろ気を抜けない状況に変わりはない。
「ボクがここに来た意味、分かるよね?」
「腹の探り合いをする気はないという事か」
「うん、ボク結構怒ってる。”タダの”ニンゲンを巻き込むなよ」
タダのを強調するように言うネコ。
部屋の温度が一気に下がる。
「巻き込んでいないよ、堕落。むしろ巻き込まれないように配慮していると言って良い」
「スパイなんかを用意しておいて?それは白々しいんじゃないかな?」
「スパイ?あぁ、あの子たちか。キミの目も怒りの前では曇るんだね」
ソロモンは腕を組んで口の前に添える。
「どういう意味だい?」
「もし、もしだ。仮にニンゲンを監視する目的で誰か派遣するとしよう。兎田含め適任かな?」
ソロモンの言葉に、ネコは目を丸くする。
「……絶対、別の者を選ぶね」
「だろう」
張り詰めていた緊張した空気が一気に緩む。
「ならなぜ?あんな出力の高い者を3体も配置していたら、特別と謳うようなものだろう?」
「あの3体がいるだけで牽制になるだろう?アレが守っているというのに攻め入るのはよほどの痴れ者だろう」
ソロモンはあえて言わない。
あの3体を物ともしないほどの実力者である可能性に。
「結構。それなりの配慮しているんだね。ところで当人は知っているのかな?」
「知っているわけないだろう?あの粗忽さを考えたらいつボロを出すか」
「ソロモン卿、キミも苦労しているんだね」
「今回、キミの手を煩わせた件はそれなりに対処しておくよ」
*
「に、ニンゲン!なぜか減俸処分が下ったのですが!?」
「知らんわ」
ミミがスパイではないというために絶対必要な話でした。




