悪魔がウチにおりまして・190
私は公園に居る。
静まり返った、ひとりで。
夜、街頭に照らされている公園は少し肌寒かった。
家から少し足を延ばしたところにある、木々と芝生がある自然豊かな公園。
「ここなら、良いか」
芝生の中心に立つと目を閉じる。
大きく息を吸って、吐き出す。
少し湿った、夜の結露を感じる。
自分の身体に意識を向ける。
頭から始まって首を通り、右肩。
手の先まで行ったら肘を通って脇に戻る。
続いて腰、膝つま先と通って左半身へ意識を巡らせる。
その時に茂みの揺れる気配。
目を開くとネコがいた。
いや、ネコに見える何か、だろうな。
「ネコと言ってよ。わざわざ来たんだから」
「ネコは話さないよ」
久しぶりに見かけた、サビネコ。
「ニンゲンは、カエルと出会って無事で戻らないくらいに?」
ネコは顔を洗いながらなんでもないように言ってのける。
「どこから知ったのかしら」
「こう見えて情報筋はいくらでも。まぁ、今回の件は派手だったからみんな知ってるけど」
ネコは小首を傾げながら、誇ることもしない。
「悪魔、あんなに雷落とすから」
「正解。逆にそのお陰でキミの陰が薄くなっているんだから、良い事じゃない?」
「そうね。今日は何?夜のお散歩ってわけじゃなさそうだけど」
にらみを利かすとネコはその場に座り込む。
「珍しい行動を取っていたら気になるのは友人として当たり前じゃないかな?」
「なれなれしくない?正体も明かしてこないヤツを友だち?」
鼻で笑うとネコは後ろに飛びのく。
その場所に銀ナイフが飛んでくる。
「危ないなぁ。ボクじゃなきゃ死んでたよ?」
「仕留めようと思ったんだから当然でしょ?」
ナイフの飛んできた先に居たのはコハクお姉。
「去りなさい。妹は疲れてるの」
「やれやれ。親交を深めるのはまたの機会に」
ネコはそのまま振り返ると茂みの中に消えていった。
お姉は銀ナイフを拾うと振り返る。
「メノ、今日は帰んなさい。後始末はしておくから」
「ん、ごめん」
私の素直な態度にお姉はため息を吐く。
「立場、考えなさい。最近、迂闊だよ」
「気を付ける」
それだけ言うと元来た道を振り返る。
一歩も違わぬように。
間違えたら、二度と戻れないのではないかと感じてしまうほどに慎重に。




