悪魔がウチにおりまして・18
ウチには悪魔がいる。
思い立ったように変なことを言い出す、悪魔が。
「ニンゲン!秋っぽいことをしたいのです!」
私とクモが毛糸キャッチボールをしていると、雑誌を読んでいた悪魔がダンっと畳を叩いて身を乗り出してくる。
雑誌の表紙には「今こそ行きたい秋旅行」の文字がポップな色合いで踊っている。
「休みなんか取れないよ、人込み嫌いだし」
「旅行じゃなくてもいいのです!秋を、秋を満喫したいのです!」
「じゃなくても」と言っているあたり、あわよくば旅行にも行きたかったのか。
そうは言っても、秋っぽい旅行じゃないことって何があるのだろう。
「ニンゲンはキノコとクリならどっちが好きですか!?」
曇りなき眼で見つめてくる悪魔。
なるほどね、食欲の秋というわけか。
スーパーに地雷子ちゃんと一緒に向かう。
さすがにクモを連れてくるわけにもいかず、お留守番。
「こんなに食べ物が…ニンゲン、全部買ってもいいですか?」
「いいわけないでしょう」
悪魔の食欲を考えると冗談に聞こえない言葉をたしなめつつ、カートを押す。
入ってすぐのところに有った果物コーナーから、生鮮、肉類と進んでいくたびに驚きの声を漏らす悪魔に初々しさを感じ、自分も初めてスーパーに来たときにはこんな風だったか…と懐かしく思う。
「ニンゲン!肉が!ほらこんなにもお肉が!」
悪魔が肉のコーナーに立ち寄るとそのまま食べそうな勢いでショーケースをのぞき込む。
ご近所さんの目など気にしない悪魔は少々うらやましい。
「今日は秋っぽい食べ物でしょ?肉はまた今度」
「おーにーくー…」
未練たらたらの様子だったが意外とすんなりついてくる。
自分の言った言葉に責任を持つ、良い悪魔だ。
結局、剥きクリとサンマ、そしてカキを買って家に帰る。
クリを適度のサイズに切り、炊飯器の中に。
炊けるまでの間にサンマに塩を振って下味をつけておく。
しばらくすると炊飯器から湯気が出て、部屋に秋の香りが広がる。
悪魔とクモは今か今かと炊飯器の前で小躍りをしている。
空き時間に大根おろしを擦っているとクモがやります!とばかりに手を上げる。
アルコール消毒をしてもらい、大根おろしを任せる。
…感覚が麻痺ってきている自覚は、ある。
ご飯が炊けてサンマも焼けて、ちゃぶ台を出して食卓に並べる。
「クモー。アンタ熱いの平気?」
クモは両手で丸を作る。それならとクリご飯とサンマをほぐしたものを乗せて床に置く。
「どう?秋っぽいごはんは」
「お肉が無くてもいいですね、また食べたいです」
こうして秋の夜長は更けていくのだった。
ウチには悪魔がいる。
意外と季節に敏感な悪魔が。




