悪魔がウチにおりまして・172
ウチには悪魔がいる。
そういえば毛並みが一定だったりする、悪魔が。
「ねぇ悪魔。アンタどこで毛を切ってるの?」
何の気なしに聞いてみると、悪魔はポトリと歯ブラシを落とした。
歯磨き粉付ける前でよかったー。
「ニ、ニンゲン、聞いてしまうのですか……ボクの美しいキューティクルの秘密が気になるのですか……」
このテンション、前もなんでもないことの時に有ったなー。
なんだったっけなー。
一瞬で興味を失ったことに気付いたのか、悪魔は足にしがみつく。
「きーにーなー」
「りません」
バッサリ切ると悪魔はしくしく泣きながら歯磨きを始める。
「あれ、ミミさん。どうしたんです?歯磨き粉と間違えて接着剤でも使ってしまったような顔をして」
牛がひょっこり畳から顔を出す。
喩えのセンスよ。
どことなく毛並みの良い牛。
タイミング、良いですな。
「ねぇ、牛牛。アンタたちどこで毛を刈ってるの?」
「何気差別的扱いを受けた気がするのはスルーしますね。どこってお店ですよ。自分じゃ切れませんから」
「きーにーなー」
「おしゃらっぷ」
すり寄ってくる悪魔を押し返し、牛に聞く。
まーた泣いてうがいしているよ、この子。
器用だな。
「なんです、ミミさん花粉症ですか?」
「放っておきましょ。あっちにも美容院あるんだね」
頷いていると牛が目を細める。
「ニンゲンさん、こっちのこと馬鹿にしてますー?ボクたちみたくこっちで仕事しているのもいれば、日常を支えてくれてる方々もいるんですよ」
確かにこっちの世界がいろんな仕事のあるように、あっちでも分業くらいするだろう。
「……この子、本当に仕事してるの?」
今泣きながらフェイスケアしている小動物に疑いの目を向けてしまう。
「割と評価高いですよ。怒らないし」
ほー。
この子もこの子で頑張ってるのね。
「あの専務とかげん……」
「お疲れ様です!」
悪魔はいきなり涙を止めて45度で腰を折った。
そして何事もなかったようにフェイスケアに戻る。
「条件反射ですね。ね?苦労してるでしょ」
同意を求めるな。
あのリアクション以降、私は悪魔の前で「専務」と言わないことを決めたのでした。
ウチには悪魔がいる。
思った以上に社畜していた悪魔が。




