悪魔がウチにおりまして・167
ウチには羊がいる。
そこそこ毛の抜け落ちた羊が。
「私はなにか悪いことをしたのでしょうか」
羊はコーヒーを入れたマグカップを両手で捧げ持ちながらカタカタ震えている。
曰く。
連日ココアが届く。羊毛布団が届く。キューティクルケアシャンプーが届く。
その上で犯人に心当たりはないという。
うん、それもどうなのだ?
「で、なんでウチに来たの?」
ちゃぶ台に肘をつきながら話を聞いていたらなんかアホらしく感じてしまう。
「家にいると……何が届くか分からなくて……」
コーヒーをすする手に力がない。
その時ウチのチャイムが鳴る。
羊は背筋を伸ばし、危うくコーヒーを溢しそうになる。
現れた牛は苦笑い。
「普通、ボクに牛丼頼みます?」
「ありがとうございます……とろろはありましたか?」
相変わらずの空気の読めなさ。
今回ばかりは同情の余地は……考えたら珍しくあるぞ?
「ありましたよ。ワサビとろろ、アタマ多め、つゆだく。お使いにしたら注文多くないです?」
「今は、自分の食べたい物しかノド通らなくて」
にしたら重いでしょうに。
「ところでなんでそんなやつれているんです?」
「かくかくしかじかで」
「ちゃんと言ってくれないと分からないですよ?」
ていうか、この前それやったし。
ともあって。
「……えっと。心当たり、本当に無いんですね?」
牛は頭を抱えながらうつむく。
ですよねー、話聞くだけでわかりますよねー。
「ええ。今日もたまごかけご飯しか食べてません」
歯が弱りそうなメニューばかりだなー。
「えっと。ニンゲンさん、このヤギさんどうします?一応これだけ抜け毛出てるんで心配ではあるんですが」
「それには同意するんだけどねー」
「こんにちは!」
「おや、神さん。いかがなさいました?」
おい、元凶と被害者。普通に会話してんじゃないよ。
「やっぎー、最近元気ないからどうしたのかなって!」
「いえね、特に何があるわけでも無いのですが……あ、とろろ食べます?」
その言葉に神ちゃんの眼が光る。
「ううん、大丈夫!また来るね!」
牛はぼーっと見ている。
「放っておいていいですね」
「なんで!?」
なんではこっちのセリフだよ。
予想通り大量の大和イモが羊の家に届いたのは言うまでもない。




