悪魔がウチにおりまして・160
ウチには悪魔がいる。
ファンレターを出すくらい熱心に追っかけている悪魔が。
夜、ご飯を食べているとカタンと何かが届けられる音がする。
「……来た」
悪魔はその音に反応すると急いで外のポストに走り出す。
「ご飯中なのに急いでなんなんだろ」
悪魔はスキップしながら戻ってきた。
「それ、何?」
「山田羊さんの新刊ですー。書下ろしですー」
やまだ、よう……。
ちらりと羊を見るとスッと目を逸らした。
うん、コイツ作家続けてたのね。
別に悪いこともしてないしなんならちゃんと出版社から出てるのだから純粋にこの羊の書く小説が面白いってことでしょう。
「ご飯食べてからにしてね、片付かないから」
「いちにち!待ったと!いうのに!」
「明日からご飯ぬ」
「さぁ、早く食べますね!」
しつけは残酷なのです。
ご飯を食べ終わり、食器を片付けいそいそと押し入れに入る悪魔。
オカリナ防音のために静かに集中できるそうな。
「……あれだけ熱心なファンがいるってどうなんですか、山田さん」
「あの、恥ずかしいんで辞めてもらっていいですか?」
羊はコーヒーをすすりながら顔を赤らめる。
「でも、前作?は悪魔のちっちゃいころでしょ?今回は?」
「さすがに悪いと思いまして。ちゃんと自分で考えて書いてみました。懐かしい昭和風味の物語です」
昭和のころからこの羊は日本に居たのか。
「しかし、難しいですね、小説。前はミミ君のことを書いたから楽だったのですが」
しみじみとマグカップを傾けながらほうっと息を漏らす。
「それにしても、あんな忙しそうなのによく書く時間あったわねー」
「ほらこうすれば時間は作れます」
シュッと分身する羊。
心なしか分身のほうが痩せて毛がところどころ抜けている。
「し、締め切りは、勘弁して」
シュッと戻す羊。
「……なにもありませんでした」
「そうね」
相当酷使したんだなぁ。
自分の分身をあそこまで使い潰す羊に何とも言えない気持ちになりながらコーヒーをすするのだった。
押し入れには悪魔がいる。
夜遅くまでライトの光を漏らして小説に熱中する悪魔が。




