悪魔がウチにおりまして・16
ウチには悪魔がいる。
完全無欠とは言い難い、悪魔が。
「そういえばあんた、苦手なものってあるの?」
首輪を付けたクモと毛糸でキャッチボールしているふたりに雑誌を見ながら声をかける。
特に意味はない、時間つぶしの話題振りだったのだが悪魔は青ざめて持っていた毛糸をぽとりと落とす。
「…ニ、ニンゲン…とうとう反旗を翻すわけですね…いいでしょう、こうなっては自分の身を守るしか…」
本気なんだが冗談なんだか分からないすごみ方をする悪魔。
その様子をクモは私と悪魔、何度も見返しておろおろとしている。
「この子の苦手なものは気の抜けたコーラ、伸びたラーメン…でも濡れ煎餅は好きなんだから不思議ですよね」
なぜがプチ戦闘モードに入った悪魔と私の間に飛び出してくる羊。
その間の抜けた声が張り詰めた空気を緩ませた。
「ヤギさん!…苦手ってそういう意味ですか?」
逆にそれ以外の何があるというのか。
「ねぇ、羊。あんた時々こっち来るけど何しに来てるのよ」
今回は助かったけど、などと伝えたら絶対に調子に乗るから言わないけど。
「おや?不思議な生き物が増えてますねー。私、ヤギと申します」
私の言葉をガン無視して羊はクモにまで名刺を渡している。
あれ?クモ、なんかめっちゃビビってない?
「それより、何しに来たのよ」
「あー、忘れるところでした。コレ、届けに来たんです」
羊が取り出したのは埃まみれの古い本。
え?何?魔術書的な物?ついにこっちの世界を侵略?
「それはやめてくださいー!」
ハルマゲドン回避方法を考えていたら悪魔が顔を赤らめてその本をひったくる。
「こんなもの、なんで持って来たんですかー!」
「書類整理をしていたら出て来たんです。せっかくですので渡しておこうかと」
「帰った時でいいじゃないですかー!」
なにやらやいのやいのしているが、悪魔の顔はゆでだこのように真っ赤になっている。
そんなに興奮するものなんだろうか?
「ねぇ羊」
「ヤギと申し「そういうの良いから。何を持ってきたの?」
羊の言葉を遮るとクモがなぜかキラキラした目でこちらを見ている。
この子の感情はよくわからない。
「これですか?この子が小さい時のアルバムです」
ほほう。
ウチには悪魔がいる。
アルバムで顔を真っ赤にする、悪魔が。
「見たらダメですー!」
もちろん、却下です。




