悪魔がウチにおりまして・136
悪魔がお茶を点てている。
おいおい、なんでそんな技術あるんだよ。
「ニンゲン、お静かに。まぁ詫び寂びを理解できぬのも無理からぬ……殺気」
無礼な口利きに教育的指導を一発かまそうとする。
その気配を察してか逃げようとするもその場にコロンと転がった。
「足が、足がー!」
自分で正座して勝手にしびれていたら世話ないですわ。
「で、なんでいきなり抹茶なんかやってるの?」
しびれている悪魔の足を突きながら問いただしてみる。
悲鳴を上げながらなので要領を得なかったが、どうやらなんかのマンガに出ていた千利休に感動して真似をしたらしい。
「こんな辛い足のしびれに耐えながらお茶を煎れた偉人です」
解釈が違うぞー。
「ミミ殿、利休殿も足がちびれるのが苦手でちたよ」
悪魔の煎れたお茶をすすりながら狐がぽつりとつぶやく。
あんた、知り合いですか。
「ごんちゃん、師匠とお知り合いでしたか」
弟子入り、いつしたのかなぁ?
「ミミ殿、利休殿の弟子だったのですね。某は噂でちか聞いたことがないのですが」
悪魔の顔色がみるみる青くなっているが、気にしても仕方ないでしょ。
悪魔の点てたお茶をすすりながらのんびり眺めて……おや、クモが降りてきた。
「どしたの、クモ」
クモはお茶を突いて自分も飲みたいとアピールしている。
珍しいこともあるものだ。
「悪魔、クモがお茶飲みたいって」
「クモちゃんも詫び寂びの心を理解しておりますか」
悪魔は再び正座をして、お茶を点て始める。
意外と手際よく茶せんを揺する姿は様になっている。
「何回も煎れたことあるの?上手じゃない」
「動画で何度も見たのですー」
最近の動画、侮りがたい。
「できました。クモちゃんお上がりください」
すっと茶碗を出してクモは一礼する。
さすがにお椀を回すことはしなかったものの、ちびりとひと口舐めるように口に含み、そのあと飲みきったら脚で飲み口を拭っていた。
このクモ、もしかしたら私よりも作法知っているぞ。
茶碗を返すと、ペコリと頭を下げる。
「お粗末さまでした」
悪魔も倣って頭を下げた。
なんだ、この平和な空間。
クモが巣に戻ろうとする時に狐が声をかける。
「クモ殿、順番が逆ですがどら焼きがあります。お召ちあがりください」
クモは恭しく頭を下げた。
これは私にもわかる。
かたじけない、ね。
ウチでは茶会が開かれている。
ニンゲンは私しかおりませんでしたが。




