悪魔がウチにおりまして・14
ウチには悪魔がいる。
時たま謎の生き物を連れてくる悪魔が。
「ニンゲンー。ここはペットOKですか?」
「ペット?ダメではないけど、ダメだよ」
我ながら一行で矛盾したと思うが、こういう質問をしてきたときにはすでに何か連れてきている時なのだ。
「ほら、畳傷つけたらいけないでしょ?だから元のところ戻してきなさい」
「ニンゲンに心は無いのですか…震えて涙を浮かべていたのに…」
やっぱりか。
ペットを飼うということは命を育てるということ。
生半可な気持ちで連れてきて、やれ病院だ、やれトイレだとややこしい。
ましてこの悪魔も昼間は仕事をしている。誰が世話をするというのか。
「ちゃんと面倒見ますから」
「病院の予防接種とかあんた出せるの?連れていくの嫌だよ?」
全部自分で見れるなら…と甘いことを言うべきではなかった。
「大丈夫です、そこらへんは要りませんから!」
「…何拾って来たの?あんた」
嫌な予感しかしない。だが確かめなければならない。
こいつが、何を連れて来たのか。
「この子です!」
「捨ててこい!」
悪魔が後ろ手に隠し持っていたそれを見て、思わず叫び声をあげる。
悪魔が飼いたいと言っていたのは20センチを超えるクモだった。
「いいですか?クモは飼うものではありません。確かに飼っている人もいますが、それはマイノリティです」
畳の上で悪魔を正座させて、敬語で説き伏せる。
心なしかクモもしゅんとして悪魔の隣に座っている。
「この子を飼うことはまかりなりません。元居たところにお返しなさい。それがこの子のためでもあります」
口調崩壊している自覚があるが、関係ない。
悪魔がクモを拾って来たのだ。動揺している。多少の違和感には目を瞑ってもらわねば。
「でも、こんなに可愛いのに…」
悪魔は泣き落としにかかる。クモもしょげているように見える。
こいつもしかして言葉わかってる?
「右上げて」
試しに口に出すと悪魔が右手、クモが右脚をあげた。
「左上げて」
ふたりは万歳をした。
「左下げないで、右下げる」
悪魔があわあわと慌てている中、クモは左脚を高々と上げている。
…悪魔より賢いなら仕方ないか。一応殺虫剤を用意しておこう。
「ちゃんと世話しするなら、ね。畳傷付かないだろうし」
ぱぁと明るくなる悪魔の顔。
クモは万歳をしてお世話になりますと言いたげに頭をペコペコと下げる。
ウチには悪魔がいる。
これからはクモも居ると言わなくてはいけないのだろうか。




