悪魔がウチにおりまして・129
結局のところあの割れ目について何も分からなかった。
私たちが割れ目の外に出た瞬間にみるみる割れ目は消えてしまい、跡形もなくなった。
そしてザリガニに聞いたところ後追いの羊が入った瞬間に出てきたそうだ。
まるであの修行部屋のように。
悪魔はさっきから震えていて使い物になりません。
羊は無言です。
むしろ、コイツが無言のほうが怖いよね。
さっきからうぱは頭の上に乗っかっていて離れない。
顔にへばりつくのは勘弁してもらっているが、離れるつもりはないようだ。
よほど別れることが寂しかったのかもしれない。
『ウチの子』
あのヤバい人が言っていたことを考える。
ウチの子って言っていたということはあの人の本体もうぱなのだろうか。
見えないし、想像したくない。
「ニンゲン、アレはヤバいです」
悪魔は相変わらず繰り返している。
「それは知ってる」
「分かってないです」
珍しく悪魔が反論してくる。
「ボクは毎日専務とお話してます。専務は怖いです、ヤバいです。
でも、あの人は専務よりヤバいのです。なぜだか分からないですが」
要領を得ないことを言っている悪魔は放っておく。
というか「ヤバイ」しか言わないのだから話が進まないのよ。
とりあえずウチに帰る道中、クモも頭に乗ってきてそれなりに重い。
狐は道中悪魔をなだめている。
「羊、アレ、何だと思う」
「…言えませんな」
…ほう。
でもコイツよく専務や歯医者の名前口滑らしかけていた。
そのそこつ者をもってして、言えない、か。
本格的にマズイ相手だったのかもね。
「なら質問を変える。私たち、無事だと思う?」
「それは無論ですね。もし対処するつもりだったら帰れていませんから」
それは同意。
なんなら帰り道作ってくれたし。
「とりあえず、安全?」
「むしろあの方に目をかけられた時点で」
やっぱり、コイツ正体知ってやがる。
本当はバリカンを持ち出してどうにか聞き出したいものだが、羊の表情を見る限りそれは無理だろう。
(でもまぁ、うぱの親でしょ?)
なぜか安心というか、信頼というか。
この子の身内で危ない想像がつかない。
…変なことには間違いないけれどね。
やっと家に着いた。
なんかとても長い旅をした気分だった。




