悪魔がウチにおりまして・120
ウチには悪魔がいる。
さっきから豆をぼりぼり食べる悪魔が。
「ニンゲン、節分は歳の数豆を食べなければいけないと聞きました」
家に帰るとひたすらに豆を食べている悪魔。
たしか、朝出かける前にも食べていたような気がするのだが。
「いつまで経っても食べ切れません。どうしましょう」
ちらりと悪魔の後ろを見ると既に10個以上の節分豆の箱が転がっている。
コレ、ひと箱いくつ入っているのだろうか。
「悪魔、いくつ食べたの?」
「1,000までは数えていました」
つまり今は数えていないんかい。
水をくぴくぴ飲みながら休憩している。
そうだよねー、煎り豆って喉乾くよねー。
「悪魔。別に歳の数食べなくていいのよ?」
豆は栄養があるから、小さい子どもが大きく育つように願掛けして食べさせたのが今でも伝わっているとかいないとか。
私の言葉に悪魔はぴたりと止まる。
「いい、のですか…?ボクはもう食べるのを辞めていいのですか…?」
これ以上豆を食べなくていいと知ると涙をこぼし始める。
どれだけつらかったのよ。
「この数の豆を買う時、これがお菓子なら、チョコならと思いながら買いました…。辛かった…。辛かったです…」
何もそこまで追い詰めんでも。
「ミミ殿は、ニンゲンの風習をちっかりこなさなければ一人前でないと言い張りまちて」
狐は海苔巻きを巻きながらこちらを見る。
一応止めてくれたっぽい。
しかし悪魔は涙を浮かべながら豆をもうひと箱開けた。
開けるの!?
「…クセになってます」
自分で開けたくせにさらに涙をこぼす悪魔。
「私も食べてあげるから。ほら狐ちゃんも」
まな板に海苔巻きを置きながら豆をつまむ狐。
…恵方巻、切っていいんだっけ?
「ちかしミミ殿、豆を食べていいのですか?古来より魔を退けるために豆を撒きます。ミミ殿、悪魔ですよね?」
クモにも豆を分け与えながら悪魔を見る。
10箱以上食べた後にそれ聞く?
「大丈夫です。なまはげのおじさんに聞きました。豆まきはエンタメだって」
昔からの伝統に謝れ。
「ところで宿主殿。海苔巻きは長めと短め、どちらが良いですか?」
だから切っちゃだめなんだって。まぁ細巻きならいいか。
ウチには悪魔がいる。
ついに石臼で豆を挽き始めた、悪魔が。
豆、食べましたか?




