悪魔がウチにおりまして・117
その変化に気付いたときにはすでにことが終わっていた。
きっかけが狐が穴から飛び込んだタイミングに遡る。
「うわぁぁ、あいた!」
狐がメンタルとタイムのルームに入って来たことで悪魔たちは顔を真っ青にした。
この部屋にいくつかルールが有る。
まず入ったら24時間出ることができない。
だがこのルールは部屋の中に限定された時間経過のため、さほど大きな問題にはならない。
もうひとつ、今回狐が入ってきてしまったために発生してしまったルール。
それは「途中で入ると出入口がロックされる」という切羽詰まるものであった。
なぜならこのロックがかかってしまった場合、現実と同じスピードで部屋の時間が進み始めるからである。
この部屋の中に食料が無くていい理由は実際に時間が進んでいないからだ。
そのお陰で疲れることなく行動できる利点がある。
しかし、部屋に入るとその中の体感時間で24時間外に出ることができないため、あまり活用されず忘れ去られていったのだ。
そんな年代物の儀式を行い修行に充てた羊が悪いと言えば悪い。
大抵そのような場合に備えて安全策を取っておくのがセオリーだが、羊は当然そんなことをしているわけもない。
「ごごごご、ごんちゃん!?なんで入って来たのですか!?」
「穴の前に立っていたら吸い込まれてちまいまして…」
この中に入ったときに打ち付けたのか、頭をさすりながら2匹の悪魔たちを見上げる狐。
毛に覆われた顔であるものの、血の気が引いていることは明らかだった。
「と、とにかく落ち着きましょう。こういう時のために脱出用ホールを作って…閉じています」
羊の言葉に悪魔は絶句する。
今回侵入した狐に付与された属性がマズかった。
神性を帯びたものが悪魔の領域に侵入したのだ。
身内であれば作動したであろう脱出用ホールも異界の者であれば話は別である。
羊の用意した非常用ホールは完全に閉じられてしまった。
「ボクたち、干物になるのですか?」
悪魔が涙を溜めながら天を見上げた。
その刹那、白い壁にぴしりと亀裂が走る。
その亀裂は徐々に大きくなり、壁に人間大の穴を開けた。
「全く…悪魔を助けるために出動することになるなんて…」
その穴を作ったであろう人物、メノウの姉・コハクは手を伸ばして悪魔の腕を掴む。
「高いよ?…まぁメノが素直に甘えてくれたから割り引くけどね」
コハクの後ろでひょっこりと顔を出すメノウ。
「バカやってるからでしょ、ほら、帰るよ!」
その目は軽く充血していることは、逆光の悪魔たちには見えない事だった。




