悪魔がウチにおりまして・113
ウチには悪魔がいる。
時々悪魔と忘れてしまう悪魔が。
悪魔が仕事から帰ってくると書類の束を自分の押し入れに突っ込んだ。
「今日はご飯ここで食べるのです」
「行儀悪いから机で食べなさい」
今夜のご飯はカレーうどん。溢されたら溜まったものではない。
「あいー…」
不承不承といった様子でちゃぶ台に着くも、書類を書きながらうどんをすする。
書類に汁を溢してしまえ。
「ミミ殿、なんの書類なのですか?」
「人類堕落の計画書なのですが…無理なノルマを押し付けられて」
これ、人類の目の前で話すことなの?
もしかして私人類扱いされていない?
「ほう、どんな計画なのですか?」
狐、うどんをすすりながら世間話のノリで聞くな。
「んー、四半世紀以内にボクの会社の顧客数を3倍にしなければならなくて。すでに人類の8%が顧客なのに…」
頭を抱えながらよよよとカレー汁を飲む。
食事の片手間に人類の行く先が決まっていくのか、世も末だなぁ。
「お困りですな!」
玄関の扉がバタンと開き、羊が顔を出す。
「カレーの匂いはなぜか懐かしくなります。ニンゲン、ご飯少なめで…汁だけで良いのでください」
ウチらがうどんをすすっていることを見て悲しそうな目をする羊。
まだひと玉あるから食べさせてあげますから。
「…ヤギさんもこんな専務の横暴に耐えてきたのですか?」
悪魔の歯に衣着せぬ物言いに、眉を顰める。
「ミミ君、昔から壁に耳あり障子にメアリーと言うでしょう。滅多なことを言うものではありません」
なんか違うこと言った気がするけれどスルー。早く食べてもらわないと洗い物が片付かない。
「そうは言いますけどぉ」
項垂れる悪魔にぽんと手を置く羊。
「苦労は若いうちにしておきましょう。私も社長に抜擢されるなんて思っていなかったのですから」
そっかー、羊も抜擢になるのかー。
「なのでさっさと人類を堕落させる計画を立てましょう。大丈夫、計画未遂でも怒られるだけですから!」
いい笑顔で言っている羊。アカン、それはアカンやつ。
「…1,000年間計画未遂でもへこたれなかったヤツがいるって専務言ってましたが、もしかして…」
「やや!?会社の電話が鳴る気がします!ニンゲン、ごちそうさまでした!」
羊は素早くどんぶりをシンクに頬り込むと、足早に玄関から飛び出す。
「ミミ殿、頑張りましょう」
狐はずずっと汁を飲みほした。
ウチには悪魔がいる。
「どうやったらニンゲンは堕落しますか?」
聞くなよ。




