悪魔がウチにおりまして・111
ウチには悪魔と羊がいる。
なぜかとても険悪なムードの2匹が。
「ヤギさん、こればかりは譲れません」
「ミミ君、目上の者を立てることは必要ですよ」
家に帰るなり、2匹の悪魔が目から火花を散らしている。
その火花、演出の癖に本当に燃やすのやめなさい。
「どうしたの?なんかあった?」
あまりの険悪さに思わず声をかけたことが運の尽きだった。
「ニンゲン!ボクこそがふさわしいと思いますよね!」
「いーえ、ニンゲンならば私こそ適任であるとわかっていますよね」
なんのこっちゃ?
主語がなく迫られても困るでしょうが。
ふと、ちゃぶ台に目を移すとそこには1個だけあるどら焼き。
まさか。
「つかぬことをお聞きします。アンタら何を決めてるわけ?」
「このどら焼きを」「どちらが食べるかです」
勝手に決めろし。
そんな時玄関から狐が勢いよく扉を開く。
「どら焼き…」
狐の目はらんらんと輝き、今まで争っていた2匹は自らの背にどら焼きを隠す。
「今…どら焼きと聞こえまちた…。そのためビルから飛んできたのですが…」
ビル、歩いて10分くらいあるんだけどなぁ。
「ど、どら焼きなんて言ってませんよ、ねぇ、ミミ君」
「そうですよ、今話していたのは…どらえ」
「怒られるから」
危ない単語を口走りそうな悪魔を止める。
コイツ、時々やばいから。
このままでは暴走しそうな狐がいるために2匹を引きはがし、どら焼きを目の前に晒す。
どら焼きを視野に入れた瞬間、狐の目の輝きがさらに増した。
「…某小豆には目がないのです…」
割と常識サイドと思っていた狐、弱点発見、今後気を付けるとして。
「ごんちゃん、ダメなのです!これはボクたちのお小遣いで買ったのです!」
「そうです、オーナー!ちょっとのことでは…」
「ヤギ殿、来月から家賃3倍です」
うわー、横暴だー。
クモが天井から降りてきて私の肩をぽんと叩く。
がんばれじゃないのよ、この状況は。
「良いでしょう…ここは公平に…」
悪魔が手を出す。日本の伝統芸能、じゃんけんのでば…待てい。
アンタらヒヅメやら肉球やらでどうやるというのか。
「ミミ君、いい案です。オーナーとはいえ手加減は…」
刹那、クモがどら焼きを3等分に切り裂いた。
前脚を鞘に納める真似をするんじゃないよ。
ウチには平和が訪れ…なかった。
3匹のケモノはミリ単位で争いを続けたのだ。もう知らん。




