悪魔がウチにおりまして・108
ウチには狐がいる。
やる気に満ちている狐が。
「宿主殿、本日の夕食は必要ございませんので」
狐はキリっとした表情で出かけていく。
その背中にはノートパソコンを背負い、颯爽と玄関を出ていった。
「ごんちゃん、もうお仕事ですか?まだ7時ですのに」
悪魔は歯磨きをしながら話して来た。器用な。
「ほら、クモに置いていかれてショック受けてたし」
そう、今クモ糸ロフトを増設しているクモは大きくなりました。
慣れません、それはさておいて。
「確かにだいぶショック受けてましたねー」
うがいの終わった悪魔はのんびりとコーヒーミルを引き始めた。
歯を磨いた後にコーヒー、だと?
「キャリアってそんなに気にするもの?」
「どーでしょうねー…」
悪魔は腕を組みながら考えている。
悪魔にとって出世はおまけ程度であったので実感がない様子。
そんなときに見慣れぬ来客が。
「どうも。うわ、本当に大きくなりましたね」
玄関を叩いて入ってきた牛は天井を見上げながら目を丸くして声を上げる。
そりゃこれだけ大きくなればね。
「兎田さーん!これから出勤ですかー?」
そうか、こいつもここを通って出勤する生き物だったか。
「ヤギさんの仕事、ようやく終わりまして。系列だとすぐ使いまわされて嫌になります」
割と苦労抱えてません?大丈夫?
「兎田さん、かくがくしかじか」
「その言葉便利ですがなんの説明にもなってないですからね」
牛は相変わらず冷静だった。
「あー。確かに大家さん、最近おかしいですねー。夜遅くまで電気付けて仕事してたり、早朝徘徊してたり」
やだー、普通にノイローゼじゃないですかー。
「平常運転のごんちゃんですねぇ」
「シャレになりません」
牛にツッコミ速度が負けて少し悔しい。
「通常って?」
「ごんちゃん、昔から自分を追い込む時ずっと同じこと繰り返すのですー。で、何かきっかけがあって…」
そんな途中に羊が血相を変えて、狐を抱きながら飛んできた。
「た、倒れてました!!!」
「こうなるのです。布団に寝かしましょう」
悪魔、冷静だな!?
悪魔が言った通り歯医者曰く、ただの寝不足。
栄養バランスは問題ないようでしっかり寝れば回復するとのこと。
悪魔が終始威嚇しているのに診てくれる、人格者だ。
「…ごんちゃんも、真面目ですからねー」
そんなこと言いながら悪魔はしっかり有休を使っていた。
私?もちろん仕事ですよ。




