悪魔がウチにおりまして・98
膨大に積まれた書類の山。
その奥にしかめっ面で男が書類をすさまじいスピードで読み進めて分別している。
否決の箱にうず高く積まれた紙束がその男の判断の厳しさ、そして組織に置いての地位を表しているようだった。
「専務、紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう」
書類から目を離すことなく答えると置かれた紅茶に手を伸ばした。
「何かあるのかな」
普段であれば用が済めばすぐに下がるにもかかわらず留まり続けていることを尋ねる。
「良いのですか?あの者に地位を与えて」
「その事か」
男は初めて書類から目を逸らし、秘書を見やる。
「考えて欲しい。ニンゲンが彼の者との絆を切りたくなくて自らの守護を含め総動員してこちらの世界に侵略してきた。これは由々しき事態であり興味深い出来事でもある」
秘書は直立したまま男の言葉を聞いている。
「我らとニンゲンは本来相容れるものではない。それは低級の、名を騙った者どもに責があるものの、我らもそのことを改めようとしてこなかった。事実、仕事の一端に同じことを行なった理由もある」
「しかしそれは」
秘書が言葉を返そうとするも、男の言葉は続いた。
「無論、私利私欲は無い。個体においてはあったかも知れないがそれはニンゲンも同じだ。生きる目的が、数多くの個体が居れば規律を守れぬ個体が存在することもやむを得ない」
「…だからと言って、紛れもなくあなたに弓を引いた個体を取り立てるのはいかがかと」
「そうかな?先日異例の人事を公布したところ盛大な歓迎をされたと聞く。下に居た者が上に立つことに異を唱えることが常にも関わらず。充分な理由だろう」
秘書は口を閉じている。
「と言うのは建前。面白いじゃないか。私に『ニンゲンと離れるのは寂しい』そんな理由で立てつく痴れ者だ。新しい血だよ」
「そう、ですか」
秘書はそう言うだけで精いっぱいだった。
自らに歯向かった者を縁者消失も珍しくない一族の常識からはあまりにもかけ離れていたからだ。
「御心を汲む度量は私にはございません。ソロモン卿」
その男、ソロモンは紅茶を啜りながら微笑んでいた。
「そういえばもう一名居たな、私に弓を引いた愚か者が」
その日羊が抜け毛をまき散らしながら部屋に訪れた。
「ちゃんとブラッシングしてから…」
「クビに…なりました」
おぉう!?




