悪魔がウチにおりまして・97
ウチには悪魔がいる。
珍しく机に向かっている悪魔が。
家に帰ると悪魔が頭を抱えながらちゃぶ台にかじりついている。
ちらりとのぞき込むと何枚も書き損じたのだろう、くしゃくしゃに丸めた紙が転がっていた。
「悪魔、何してるの?」
「今日辞令が出まして」
「うん?」
「出世しました」
はい?
「ヤギさんと肩を並べました」
「なんですとー!!?」
羊がばかんと畳を開けて飛び出してくる。
驚くのはわかるけど上にちゃぶ台乗っているんだから大迷惑です。
「悪魔、おめでとー。さっきから書いているのはそれ関係?」
羊にヘッドロックをかけながら尋ねる。
「あい、大部隊の隊長になったので挨拶を考えねば」
普段なら羊とじゃれつくところ、すぐにちゃぶ台を戻して頭を抱えている。
「ねぇ、羊」
「ぎぶぎぶぎぶ」
喚く羊を離して正座させる。
「羊、アンタそんなに偉かったの?」
「こちらで言うところの部長?ですかね」
おぉう、胃が痛くなる単語を。
「ちなみに今までの悪魔は?」
「調査員該当ですので、こっちだと…」
「パートとかじゃないですかねー」
うんうん唸りながら悪魔が声をかけてくる。
おぉう!?そりゃ羊は驚くわ。
「待って?パートなのに家賃補助でるの!?」
「…?当たり前じゃないですか?福利厚生しっかりしていないと呪われますから」
これはデビルジョークってことで良いのよね?呪わないよね?
「昔は何人も役人が溶けていきましたなー」
朗らかに笑いながら言うことじゃないよー?
「今度ボクが呪われる立場に…」
輪郭がブレるくらい震え始めた悪魔。
「ミミ殿を呪う者は某が祓います?」
狐、目がマジです。クモ、糸をきゅっとしない。うぱ、わかってないなら砂糖撒かない。求む、ツッコミ!
「悪魔、冷静に考えなさい」
涙をこぼしながら紙に向かう悪魔が振り向く。
「コレを見なさい」
羊を指さす。目が点の羊。手を打つ悪魔。
「そうですね」
少し気楽になったのか、震えが止まる。
「ニンゲン、私が何か大切なものを無くしたようですが」
聞こえませーん。
ウチには悪魔がいる。
次の日たくさんの歓迎品を手に、泣きながら帰ってきた悪魔が。




