悪魔がウチにおりまして・1
ウチには悪魔がいる。
これは比喩的表現でもなく、ガチものの悪魔。
独り暮らしをしていた安アパートにいきなり現れた。
もう3日になる。
今日も帰ると我が物顔で家を占領しているのだろう。
正直、気が滅入る。
「ただいまー」
「おかえりなさい、先に頂いています」
案の定悪魔は炊飯器から自分の茶碗にご飯を盛りつけながらちゃぶ台についていた。
「今日は早かったですね。…おかず、口に合うと良いのですが」
「あのね、キミ、誰?」
突っかかると不思議そうな顔で答える。
「…何度も言ってるじゃないですか、悪魔です」
「帰ってきたらおさんどんしてる悪魔なんて方々から怒られそうですけど?」
「ニンゲンから怒られても怖くありませんので」
そんなことをシレっとのたまって、手を合わせてハフハフとご飯を食べ始めた。
確かに角が生えて、表面には毛が覆われなんならヒヅメみたいなものが手に生えている。
そんな手でどうやって箸を使っているのかなんてツッコミをしても仕方がない。
とにかくウチには悪魔がいる。
家に帰るとご飯を炊いている、悪魔が。
「ねぇ悪魔」
「何です、ニンゲン」
「いい加減名前教えてよ。悪魔悪魔呼んでるの、厨二臭くていやだ」
「厨二病は一度発症したら完治しない不治の病です。諦めてください」
論点はそこではない。
「ていうかね、米炊きすぎ。安月給独り暮らしなんだから、節約しないといけないんだよ」
そう、悪魔は普通に米も食べれば酒も飲む、むしろ横になりながら酒をよく飲んでいる。
「大丈夫です、ちゃんと食べられる3合しか炊いてませんので」
「2合半も食べる気かよ」
居候の癖に、きっちりお替りしている様はまさに悪魔である。
「居続けるつもりなら、生活費くらい入れろよな」
そう、悪態を吐くと悪魔はブルブルと震えだした。
まずい、怒らせたか。
ここまでただ飯を食う二足歩行の動物と思っていたが、考えたら悪魔なのだ。
怒らせてしまったら何をしでかすか…。
「ニンゲン」
「は、はい!」
「ファミレスは雇ってくれると思いますか?」
「…毛があるから無理じゃない?」
悪魔がウチに居るようになってから3日。
どうにもこいつを追い出す気にならない。