第69話 樹海
「なんだお前!」
「いやお前がなんだよ!」
もう1人の俺とつかみ合いの喧嘩をする。
國咲としずくちゃんが唖然とその光景を見つめている。
どちらも一歩も譲らない。
このままじゃ殴り合いになりそうだ。
「お、落ち着いてください!」
國咲が間に入って喧嘩を止める。
「一旦、状況を整理しましょう」
もう1人の俺を睨む。
同じ表情で睨み返してくる。
「ま、まず、上から降ってきてこうなりましたよね」
「そうだよ!」「そうだよ!」
2人の俺の声がシンクロする。
「これは何か能力者の襲撃だと考えられます。多分、対象を真似できる能力でしょう」
「どっちかがにせものってこと?」
「そうです」
もう一人の俺と顔を合わせる。
「こいつだ!偽物はこいつだよ!」
「いやお前が偽物だろ!?」
またつかみ合いの喧嘩になる。
「落ち着きなさい!じゃないと2人ともぶん殴りますよ!?」
しかし喧嘩は止まらない。
その時、ズシンズシン、と何か大きなものが地面を踏みしめている音が聞こえた。
「何か来ます!」
地響きと共に樹海の奥から現れたのは大きな牛だった。
でも普通の牛じゃない、全身が木でできた牛だ。
樹海の木で体が覆われており、体が空洞になっている。
動くたびに木が軋む音がする。
頭には木でできた鋭いツノがある。
「何よこいつ!?」
「おそってこないよね?」
しずくちゃんが心配そうに言う。
「だ、大丈夫ですよ。牛は優しい生き物ですから」
國咲が言った瞬間、
牛が大きな叫び声と共に、こっちに突進してきた。
「みく!?はしってきてるよ!?」
「この牛は例外のようです!」
「こっちだ!」「いや、こっちだ!」
2人の俺が逃げるために違う方向を指差す。
「あーもう!どうしたらいいんですか!」
牛は問答無用で突進してくる。
「後で合流しましょう!とにかく私はしずくちゃんと逃げます!」
「ごめんねひゅうが!」
3組とも違う方向に逃げて行った。
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「どうやら逃げ切れたようですね」
はぁ、と國咲がため息をつく。
「ひゅうが、ふたりになっちゃったね」
「そうですね・・・めんどくさいことになりました」
すると向こうからおーい、と声が聞こえてくる。
「ひゅうがのこえだ!」
「でも注意してください。偽物かもしれません」
声とともにこちらに走ってくる。
「お前ら無事だったか!?」
國咲としずくちゃんは距離を取っている。
「なんでそんな警戒してんだよ!俺は本物の俺だって!」
「信じられません」
「本物だって!」
途端、ドドドドという音が近づいてくる。
牛が向かってきている!
「じゃ、じゃあ私の名前は!?」
「國咲未来!」
「私たちが襲われた3つ顔のモンスターの名前は!?」
「ミツカミサキだ!」
「じゃあ・・・わ、私の下着の色は!?」
瞬時に村で見たのを思い出す。
「髪色と同じ赤だ!」
堂々と大声で答えると、
思いっきりビンタされた。
「いでぇ!なんでビンタしたんだよ!」
「ど、どうやら本物のようですね」
こちらに走ってくる木の牛の姿が見える。
突進してくる瞬間に國咲の能力で回避する。
木の牛は振り返ってまた突進してくる。
なぜか木の牛は國咲ばかり狙って突進している。
「なんで私ばっか狙われるんですか!?」
「お前の髪が赤いからだよ!」
木の牛の目の前に立ってエネルギー砲をぶっ放した。
見事に直撃し、
牛を構成していた樹海の木が粉々に散っていく。
「もう!私の髪を闘牛のマントか何かと勘違いしてたってことですか!?」
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木の牛を倒してから樹海をまた歩き出す。
「あの変身できる能力者、絶対また現れますよ」
「まあ大丈夫だろ、質問すればどっちが本物かわかるって」
その時、
「おーい!」
叫びながら向こうから偽物の俺が走ってきた。
「話をしていれば来ましたね」
俺たちの前で立ち止まる。
「お前ら!そいつは偽物だぞ!」
偽物の俺が國咲としずくちゃんに大げさに呼びかける。
「お前、偽物だろ」
「な、何言ってんだよ!俺は本物だよ!」
あからさまに焦っている。
「・・・お前は國咲の下着の色を知ってるか?」
ドンッ!と俺の偽物に質問する。
ほれみろ、偽物が狼狽えている。
「し、白だよ!」
「バーカ!赤だよ!」
振りかぶって思いっきり殴りかかる。
偽物の俺の頬に本物の俺の拳がクリーンヒットする。
「な、なんでそんな派手な色・・・」
偽物が倒れ込む。
すると能力が消えたのか、
俺の姿がグニャンと崩れ、中から別人の男が出てきた。
「お前!よくも俺に変身しやがって!」
「ふん!まんまと騙されやがったな!」
瞬間、國咲が地面に倒れている男の腹をガツン!と思いっきり蹴った。
怖っ!
「私の下着の色は忘れなさい」
まるで神の宣告のように男に呼びかけている。
「そういえばお前の仲間はどこにいるんだよ。あと2人いるはずだろ?」
中間試験の参加者だからこの男にはチームの2人がいるはずだ。
「今はいねぇよ!・・・俺は七罪聖夜とチームだったんだよ!」
七罪聖夜!?
「あいつ、一人でやるとか言いやがってどっか行ったんだよ!もう一人の女もさっき仲間割れして俺一人だよ!」
さっき仲間割れ・・・
「もしかしてもう一人の女って、胸の大きいあの女か?」
「そ、そうだよ!でもなんでお前らが知ってんだよ!」
「私たち、その女に大事なものを取られたんですよ」
國咲が男でイライラを発散しようとしているのをビンビン感じる。
男もそのオーラを感じ取ったのか、ゆっくり後ずさる。
「そんなの知らねぇよ!」
その時、ザザッ!と何か動く音が聞こえた。
「ははっ!奴らが来やがった!」
男が叫ぶ。
瞬間、地面に倒れていたはずの男が一瞬にして消え去った。
「どこ行きやがった!?」
「ありー!」
しずくちゃんが足元を指差す。
アリに触れて変化したのか!
「逃すかぁ!」
國咲がアリに変化した男を踏もうとドンドンその場を踏み荒す。
「おい!そんな場合じゃねーぞ!何か周りにいる!」
俺たちの周りで何かが動き回っている。
門番が言っていた異形の魔物か?幽霊か?それとも・・・
見ると、俺たちは大勢の黒い何かに囲まれていた。




