第63話 大切な人
ひたすら丑影村に向かって走る。
しずくちゃんは眠ったように動かない。
「大丈夫だからね」
しずくちゃんに話しかける。
浮かび上がる魔法陣は段々と濃くなってきている。
この魔法陣が完成したとき、呪いが発動するんだろう。
時間はあと9分ほどだろうか。
頼む、助かってくれ・・・
そのとき、向こうに建物のようなものが見えた。
走るスピードを上げる。
ここが丑影村だ!
村の入り口を通り抜け他のチームを探す。
もしかしたら呪いを解けるような能力を持つ生徒がいるかもしれない。
そんな小さな希望を持つ。
國咲は大丈夫だろうか。
頭の中がこんがらがってる。
村を走り回るが、
一向に他のチームが見つからない。
まさか誰もいないのか?
どんどん焦りが早くなる。
今この時もしずくちゃんは死へと向かっている。
村人達が怪訝そうに俺を見つめている。
今はそんなのどうでもよかった。
あてもなく村を走り回る。
・・・いない。
この村には他のチームがいない。
ダメだ・・・
その場に立ち止まる。
足に力が入らず倒れそうになるが、必死に持ちこたえる。
何もできない自分に苛立ちを感じる。
なんでしずくちゃんを守ってあげられなかったんだ。
そもそも俺が助けに行こうなんて言わなければ。
國咲・・・
昨日までの中間試験の思い出が駆け巡る。
いや、諦めちゃダメだ。
國咲だって今頃必死にモンスターと戦ってるはずだ。
俺が諦めてどうする。
しずくちゃんの体から浮かび上がる魔法陣の完成が近い。
あと数分だろう。
落ち着け、何か、何か考えろ。
今は中間試験、ここは架空世界、俺たちは能力者。
・・・そうだ!
「なぁ!見てるんだろ!?」
空に向かって呼びかける。
「頼む!助けてくれ!この子が死にそうなんだ!」
そう、ここは架空世界だ。
なら世界を作った”管理者”がいるはず。
それに中間試験なんだから、きっと学園の先生たちは生徒を監視してるはずだ!
どれだけ呼びかけても返答はない。
じゃあもういい。
「何も答えないなら・・・この世界を壊して中間試験を終わらせる!」
空に向かって手のひらを向ける。
右腕には腕輪をはめている。
遺跡で戦闘したときでも全力じゃなかった。
なら今回は最大出力でぶっ放してやる。
俺の全てのエネルギーを解放する。
しずくちゃんを抱えながら左腕で右腕を支える。
やれるだけのことはやる。
覚悟を決め、一気にエネルギーを解放する。
”特大火力砲”
俺のエネルギー砲が空へ向かって伸びていく。
しかし何かに当たったような感触はない。
やっぱりだめか。
そう諦めかけていた時、
エネルギー砲が何かにぶつかる感覚がした。
もしかして!
僅かな願いを胸にエネルギー砲の勢いを強める。
すると、バキッ!という大きな音が空から響いた。
見ると、空中にヒビのような切れ目が入っていた。
いける!
でももう威力をあげられない!
瞬間、体に力が流れてくるのを感じた。
でもなんで?
よく見ると俺の胸で抱きかかえているしずくちゃんが”身体共有”の能力を使っていた。
しずくちゃんの意識はないはず。
まさか無意識で?
でもいける、これならいける!
さらにエネルギー砲の威力を上げる。
すると空中の裂け目がバキバキッ!と大きくなり始めた。
この調子だ!
そう思い始めた時、
1人の村の住人が近づいてきた。
「やめろ、鳴神日向」
今、俺の名前を言ったよな。
村の住人が知ってるわけないし。
この人、どこかで・・・
「お前、もしかして・・・」
「この世界を作った能力者だよ」
そういえばこの人、
闘技場でワープホールを出現させた先生じゃないか!
本当にこの世界を作った能力者だ!
「全く、無茶苦茶なことをするなお前は」
「すみません・・・それよりこの子が!」
「わかってる。この子を現実世界に戻して呪いを解く」
「あ、ありがとうございます!」
抱えているしずくちゃんを渡す。
「お願いします」
深々と頭を下げる。
「こんなこと、例外中の例外だぞ」
そう言い残してしずくちゃんを抱えたまま消えていった。
「よかった・・・」
大きく息を吐く。
でも休んでいられない。
急いで國咲を助けに行かないと。
俺は森に向かって走り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
木の影に隠れて息をひそめる。
そのすぐ横をドシン、ドシンと異形の化け物が通り過ぎていく。
「はぁ、はぁ・・・」
ちゃんと村にたどり着けたかな。
・・・しずくちゃん、ごめんね、私がもっと警戒していれば。
腕からは血がドバドバと流れ出ている。
さっきあのモンスターにやられた。
こいつ、本当に強い。
倒すなんて以ての外、逃げれるかどうかもわからない。
それにこいつは複数の能力を持ってる。
多分1つは”能力阻害”。
こいつの前では能力がうまく使えない。
能力を使って避けようとしても思うようにできない。
それでこんな怪我しちゃったし。
”完全未来予測”を使えるのも体力的に残り数回。
それに”能力阻害”のせいでうまく使えるかもわからない。
逃げれないかも。
・・・ここで終わりかな。
でも、でも・・・最後の最後まで抵抗してやる。
瞬間、勢いよく木の陰から飛び出す。
走って村の方へ向かう。
気づいたモンスターがすぐに追ってくる。
すぐに真後ろまで近づかれる。
前足をあげて攻撃してくる。
”完全未来予測”
1発避け、次の2発目も避ける。
そして続けて私を襲ってくる。
3発目。
”完全未来予測”
力を振り絞って能力を発動するも、
うまく作動せず、モンスターの前足で勢いよく吹っ飛ばされる。
そのまま木に激突し、ストンと地面に落ちる。
ああ、ダメだ。
立ち上がれない。
目の前ではモンスターが、
グルルルル、キリキリキリ、カカカカカ、と鳴いている。
今すぐにでもトドメをさしてきそうだ。
チームの2人の顔が頭に浮かぶ。
親友が死んでから初めてだった、自分を犠牲にしてまで助けたいと思ったのは。
数日だったけど楽しかったなぁ。
振り返れば私は親に捨てられてからいつも1人だった。
それから私は人を信じなくなった。
学校でも友達なんてできなかったし、
自分の居場所なんてこの世界のどこにもなかった。
そんな時にあの子と出会った。
でもあの子が死んでからはまた前のように一人になった。
そしてあの2人と出会った。
最初にあんな態度を取ったらもう近づくのはやめようって思うはずなのに。
あの人は真正面から私に向かってきた。
そして私に無償の愛を与えてくれた。
だからこそ、私もそれにこたえたいと思った。
私も全力で2人も守りたいと思った。
とっても心地よかった。
初めて自分の居場所ができたような、そんな気がした。
意識が薄れていく。
ここで終わりか。
もっと一緒にいたかったなぁ。
プツッと意識が切れる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
病院だ。
目の前には親友のあの子。
昔の思い出だろうか。
「私、未来ちゃんが心配」
「え?どうして?」
「未来ちゃん、私以外に友達いないから」
「・・・別にいらないもん」
「ダメだよ。私が死んだら1人になっちゃうよ?」
「いいもん、1人でも生きていけるし。それに・・・これ以上大切な人、出会えないし」
「・・・ありがと、私のことそんなに大事に思ってくれて」
照れた静寂が流れる。
「未来ちゃんは彼氏とか欲しいと思わないの?」
「か、彼氏!?そ、そんなのいらない!」
「そっかー。でもいつか、未来ちゃんを愛して守ってくれる大切な人に出会えるよ」
ビューッと意識が引き戻される。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
意識が戻る。
自分が地面に這いつくばっているのを理解する。
あれ、私まだ死んでない。
顔を上げるとそこには、
待ちわびていた人の姿があった。
「よっ!間に合った!」




