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51話 盤上のシンデレラ8


魔界の奥、フィーゲラス城内では、魔王と娘のメアが軽い親子喧嘩をしていた。

赤のロングカーペットの先に大きな玉座が一つ、王であるサルバドールは堂々と足を開き座っている。

その王を前に、娘であるメアも堂々とした姿勢で声を上げていた。


「お父様! 何で私が次の前線となるガイゼル城で戦えないのですか?」


「メアよ、少しは落ち着くのだ。ガイゼル城には春水を配置する。問題はない」


声を荒げるメアに魔王は落ち着くように言った。

魔王というのは魔族という種のトップ、王に対して進言する時は、命とりにもなりかねない。

魔王幹部でも言葉選びは慎重になる。

しかし、メアは義理でも娘という立ち位置から堂々と意見をする時はしていた。

それは義理でも自分を育ててくれた敬意と父に少しでも恩返しをしたいという感情が強かったからだ。

だが、魔王がメアを前線に配備しない事には深い理由があった。


「春水は三層魔法使えないじゃない! ガイゼル城を落とされたら聖霊都市に攻め込む時の拠点が遠すぎるわ!」


「春水は我の右腕だ。実力はメアも承知しているだろう? それと、メアには重要な仕事をクロックとして貰う」


「私が納得できるほどの重要な仕事?」


「うむ。戦場だけが勝敗を決める訳ではない……」


魔王はメアに聖霊都市への侵入、勇者召喚の書の奪取する計画について話した。

メアはスカートの裾を強く握りしめながら納得いかない感情を抑えていた。

しかし、自分にしか出来ない事を理解せざるを得なかった。


「それとメア、この箱を春水に渡しておいて欲しい」


「お父様、これは?」


「アーティファクトの一つ。中身は……そのうち分かるだろう」


それは、黒色のどこから開けるのか分からない手のひらサイズの小さな箱だった。

メアは少し不思議に思ったが、特に興味は無かった為そのままポケットにしまった。

その後、魔王との話を終えたメアは春水がいる城でクロックと合流していた。


「分かりましたメア様。しかし、よろしいのでしょうか……」


「仕方のないこと、それに、私とクロックしかできない事だし……」


「メア様がそうおっしゃるなら……」


「そういえば春水はどこなの?」


「シュンスイ様は話が終わるまで部屋で待っていると。お呼びしますか?」


「そうね、お願い」


「はい、分かりました」


そういってクロックは影に潜るように消えて春水を呼びに行った。


「小さな城の割に良いソファーね……」


ソファーにメアの小さなお尻が軽くフィットする様に沈む。

メアは独り言を呟いた。クロックが用意してくれた紅茶を飲みながら柔らかいソファーを撫でる。

この城は補給用の簡易的な物のはずだが、全体的にしっかりとしているようにメアの目には映っていた。


「お久しぶりですね、メア様。少し大きくなられたようで」


クロックと一緒に影から春水が現れた。


「久しぶりね、そうだ春水。お父様があなたにプレゼントしたドラゴンが城に居なかったようだけど、どうしたの?」


「あー、実は……」


春水はメアにドラゴンが殺された事を話した。

春水のドラゴンはメアが小さい時に初めて背中に乗せてもらったドラゴンで、メアにとってお気に入りだった。

メアは少し寂しそうな表情をしながら呟いた。

 

「それは残念ね……」


「申し訳ありません、私のミスです。」


「仕方がないわ、ハルカを私が借りていたのだから。そうだ、これ……お父様から渡すように言われていたの」


「これは……分かりました」


春水はメアから黒い箱を受け取るとポケットにしまった。

春水の少し驚く表情にメアは少し気になった。


「それ、中身何なの?」


「……メア様ならいずれ分かる時が来ます。今知るべき事では、いえ、今知ってはいけないでしょう」


「そう……お父様と同じ事を言うのね。まあいいわ」


メアは箱の中身にそこまで興味は無かったが、春水が父と同じ様な事を言ったのが少し引っかかった。


「そういえば、ハルカはしっかりと仕事は出来ましたか?」


「ええ、彼女とても優秀ね、完璧な結界を張ってくれたわ。もう少ししたらこの城に帰ってくると思うわ」


「それは良かった。次の戦場までに間に合いそうで……」


「そうね、ハルカはあなたの半身みたいなものだったわね。」


 それからメアは、春水とクロックと雑談した後、城を後にした。

城で休んでいる春水は一人でこの戦争の行きつく先を考えていた。


「戦争は盤上の駒を動かす訳とは違うか……」


春水は黒い箱を見ながら呟いた。

頭の中では聖霊都市と魔界の遠くない未来が映っている。

勝者がいれば敗者がいるように、戦争は終わった後が一番重要なのだから。


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