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38話 ユキ姉



聖霊都市中層に位置する軍部の一室、隊長のユキは書類を前にため息をしていた。

あの誘拐事件から1日が立っていた。


「軍ってのは抜けるのも面倒なんだな、隊長なんてなるんじゃなかったよ」


私は、書類と荷物をまとめて最後の仕事を終わらせるために部屋を後にする。

この年で子供のお守りとはね……


「入るぞ~」


私は軍の医療室に入る。

医療室には複数のベットと使用中のベットが一つ。

そして、白衣姿の軍医の女性が一人椅子に座っている。


「あら、ユキ。聞いたわよあなた軍を抜けるって。」


「相変わらず情報が早いなミホは……」


「あなたの部下が言いふらしてるんじゃない? それより、その子。本当にあなたが引き取るの?」


白い軍用のベットの上で眠る少年をミホは指さして言った。

私は最後の仕事に少し責任を感じていた。

この少年は男たちに凌辱され、酷く心が傷ついているらしい。

少年の情報は全くなく、下層の貧困街の生まれで親に売られたのかもしれない。

このまま傷が癒えて外に放り出されても、将来的に犯罪者になる可能性が高いだろう。

それに、この年で初めて人を殺してしまったんだ。もう戻れないだろう。


「最後の仕事を部下に丸投げするのも後味が悪いしな。私だって女だ。母親の代わりくらいできるだろう」


「ふふっ、ユキが母親ね。」


「ちぇ、バカにしやがって。」


ミホは私が母親の様に振舞う姿を想像したのか笑っている。

私は自分の年齢がこの少年の5つぐらい上だと自覚はしている。

母親というより姉かもしれないが、それでも養えるだけの財力はある。

しばらくミホと雑談をして少年が目覚めるのを待った。


「おっ、起きたか少年」


「……ここは?」


「ここは軍の病室だ。もうお前を苦しめる存在もいないし、ここは安全な場所だ。」


「……そうですか、あの、……僕は人を殺しました。」


あの部屋から救い出した時は少し錯乱していたが、目覚めてから意外な反応に私は少し驚いた。

普通は心を完全に閉ざすか、逃げるように暴れ出したりするが……


「首元を一撃と頭を一撃、どちらもほぼ即死だった。その細い腕でよくやったよ……」


「僕を……捕まえないんですか?」


「捕まえる? 何故? 君は被害者だ。私だって君と同じ状況になれば同じ事をするだろうね」


「そうですか……」


少年は少し遠くを見るようにしていた。

私は少年が何を考えているのか分からなかったが、メンタルは安定しているように見えた。

もしかしたら、この少年の中で何か決定的な結論に至ったのか。とにかく自分を維持出来ているなら、問題はないだろう。


「ミホ、この子の外傷は?」


「手足の擦り傷と腹部のアザとお尻ね、もう治療魔法で全て治っているわ」


「よし、なら帰るか。そうだ少年。名前はなんて言うんだ?」


「……オルトです。」


「そうか、私はユキだ。これから君の母親代わりの存在になる。」


「年齢的にはお姉ちゃんよね~」


「うるさいぞ~ミホ」


少年は精神的に安定していた。少し雑談をした後、私とオルトは家に向かった。

私達は、家に着く前に適当な服と食べ物を買った。

魔法で傷は治せても、しっかりとした栄養を取らなければ体は持たない。

私は出来るだけ栄養の在るもの選び、家で料理をしてオルトに与えていた。


「どうだ? 私は料理は下手だが、一応食べれるだろ?」


「はい、とても美味しいです。ユキさんは何で僕にこんな優しくしてくれるんですか?」


「あー、なんか違う。ごめん、そうだった。」


私は少し考えが抜け落ちていた事を思い出した。この子は奴隷の様に扱われていたんだった。

人の善意や厚意や温かさ、そういったものを忘れてしまっているのだろう。

人格も少し変わってしまっただろうし……


「そうだ……オルト、その気を使った口調はこれから禁止だ。それと、私の事はユキでいい。」


「ユキ……ユキ姉さん」


「さんは無しだ。」


「ユキ姉……」


「まあいいや。それと言葉の大切さを教える。この下層では舐められたら終わりだ。女も子供も関係ない。弱者は生きてはいけない。分かるだろ?」


「はい、弱者は生きてはいけない」


「そうだ、だから僕というのも俺に変えな。自分より年上でも、権力が上でも関係ない。この世には強者と弱者しかいない。だから強い言葉を使いなさい」


「分かり……分かった。」


「そうだ、ほら早く食べちゃいな。明日からやる事が沢山ある。」


「はい! あっ、。ああ。分かった、ユキ姉!」


まだガキっぽさが抜けないが、これから私がこの子を強く育てる。

下層で生きて行くには力が必要だ。子供でも強く生きてる子はいる。

明日から忙しくなるね……

そうして私とオルトの生活は始まった。


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