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1話 ハローワールド


どこにでもある日本の風景だろう。人口の密集する東京のビル群の1室。

白いプラスチックボードで区切られた席。ペンを走らせる音とカタカタッとキーボードを打つ音が響く。

張りつめているほど重い空気ではないが、どこか無機質とも言えるそんな職場だ。

 

「よし、これでいいか」


俺はパソコンで書類を作成し、次の仕事の書類をまとめる。

17時になり、カバンに荷物を詰めてそのまま帰宅する。


「お疲れさまっす! 浅井課長!」


「おう、お先な~」


俺は軽く手を振って返す。

部下の野村はまだ少し残業するようだ。しかし俺はいつも通り帰宅する。

電車に揺られ30分、俺はいつもこの時間に虚無感に襲われる。

別に仕事が辛い訳ではない。むしろホワイト企業で給料にも満足している。

俺の名前は浅井彩人、25歳で課長。コネで入社し緩く仕事をする毎日を送っている。


『次は品川、品川です。お出口は左側です』


 無機質な電子音が鳴り扉が開き人が流れ出す。

俺はつり革を握りながら妄想していると足を踏まれた。


「痛っ……」


どうやら今日はついてないらしい。やはり満員電車は好きになれないな。

俺の足を踏んだ人は誰か分からないが、踏みたくて踏んだ訳じゃないはずだ。

俺は寛容な心を持って、窓の外を眺めながら今後の人生を想像していた。      

年齢を重ねそれなりに出世し、趣味もなく貯金もたまる一方で退屈な日々。

このまま結婚し、子供ができて。一般的な幸福というものを感じ、老いて死ぬ。

そういった想像の範囲内の日常が俺の中の虚無感をさらに強くする。


「(飽きたな)」

  

ありふれた日常を送り退屈するのなら、いっそ死んだ方が楽かもしれない。

これ以上面倒で無駄な事をするのなら早めに終わるのもありか……

そう思って俺は、仕事を辞めた。 

 退職してから俺は何か自分が本当にやりたい事を探す為、そして何より虚無感から抜け出す為にアニメ、映画、ゲームや漫画をひたすらやり続けて家に引きこもっていた。

最初はいつもと違う非日常を楽しく感じていたが、この生活が1年続き俺はまたしても虚無感を感じ始めた。


「ただの現実逃避か……」


今の俺の世界はこのワンルームの小さな部屋と壮大なゲームの世界だけだ。

俺はゲームのコントローラーを置き、疲れてそのまま眠る。

仕事を辞めればこの虚無感が消え何かが見えると思ったが何も変わらず、ただの引きこもりになっていた。

俺は仰向けになり天井に向かって呟いた。

 

「この世界は退屈すぎる」


普通の人間が引きこもり生活を始めると、活動時間が真逆になる。

生活サイクルが違う為、ゴミ出しが中々できず部屋は汚れ散らかりだす。


「今日は何をやるか、そういえば新作ゲームの発売日が今日だったな。買いに行くか……」


基本的にネットでゲームを買うが、店舗特典が付く物があるのでたまに外にもでる。

ゲームはすぐに飽きるが何かしていないと虚無感に襲われ自殺したくなる。


「誰か俺を殺してくれないかな」


俺の価値観が人とはズレてるのだろう。

どうも人生の先を考えて辿り着く結末を想像し、虚無感に浸るサイクルから抜け出せない。

そんな答えの無い妄想をし、電車に揺られて店に着いた。


「これか、勇者体験RPG」

 

俺は新作ゲームとヘッドギアを購入した。

最新のゲームで直接脳に映像を出力し超リアルな戦闘が楽しめるらしい。


「(シナリオは単純だろうが、自分が勇者になって冒険するのは中々に楽しそうだ。)」


PVの動画をスマホで再生しながら思った。

そうして俺は家に着きさっそく準備をする。


「あぁ、部屋が汚すぎてコードが邪魔だな」


机にはフィギアと空き缶にゲームソフト。

床にはゴミ袋の山と複雑に絡み合うコードたち。

俺は少しスペースを作り椅子に座った。


「さて、音声認識だったな。えー、ヘッドギア起動!」


頭に買ってきたヘッドギアを装着し、俺は目を閉じる。

ブォーンと機械が音をたて光りだす。

俺は椅子に座ったまま、少しガタガタと音をたてる机と椅子から揺れを感じていた。


「なんだ、地震か? 震度4くらいか?」


静岡出身の俺からしたらこの程度の揺れは日常だ。

ニュースすら見る気にならない。


「さてっ……」


俺はリラックスし、ゲームが起動するのを待った。

全身が暗闇の霧に包まれる感覚と時々雷のようなしびれが全身を駆け巡る。

脳に接続して、感覚までリアルに再現する為だろう……

俺はドーンッという凄まじい音と共に、全身に雪崩のように重たい物が降ってくるのを感じ目を開けた。



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