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心を持たない少年兵士と敗北の女神  作者: 浅海 景


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第4章 エレナ          ⑯テオ(2)

I国との戦争はテオが物心ついた時からずっと続いている。一度の戦いで犠牲になる人数は少ないが、長きに渡って続けられているためその数はかなりの人数になっているはずだ。

そんな戦場に師匠が送られると聞いて、テオは急ぎ師匠の部屋へと駆け出した。

エレナとテオが多少の嫌がらせで済んでいるのは、師匠があらゆる手を使って守ってくれているからだ。テオは騎士として認められるほど強さを身に付けたが、王宮で生き延びるには純粋な力の強さだけでは駄目だと実感していた。


師匠を訪ねると部屋が妙にすっきりとしていた。胸騒ぎを感じて師匠の顔を見るが、いつもと変わらない表情だ。

「テオ、お前はもう一人前の騎士だ。これからは私の代わりに彼女を守ってやってくれ」

切り出された内容を咄嗟に飲み込むことが出来なかった。


「一時的にという話だが、恐らくもう死ぬまで戻って来られないだろう。……少し悪目立ちしすぎたようだ。テオ、頼めるか?」

「師匠、俺にはまだ力が足りません。貴族連中との折衝を師匠に任せきりで、一人でエレナ…姫を守る自信がありません。彼女はここにいなくてはならないのですか?」

長年の疑問を師匠にぶつけてみた。この機会を逃したら二度と聞けなくなる、そんな気がしたからだ。


「運命から逃がしてやれるものなら、逃がしてやりたかった。お前は気づいていなかっただろうが、あの時私たちは彼の方の子飼いどもに囲まれていた。子供二人を庇って逃げ切るには私の力もまた十分ではなかったんだ。……すまない」

彼の方が王妃を示していることは明白だ。王宮内にいるほうがまだ安全だったということに、そして師匠から頭を下げられテオは狼狽した。一方で心から湧き上がる思いに涙をこらえる。師匠は自分もエレナと同じように守ろうとしてくれた、そのことが申し訳なくも嬉しかった。親に捨てられた自分を拾い育ててくれただけでなく、愛情をもって接してくれていたことを実感する。


「師匠、命に代えてもエレナ姫をお守りいたします。どうかご武運を」

「お前に何かあればエレナ姫も危うい。二人とも無事でいてくれよ」

それが師匠との最後の会話になった。


師匠の遺体は無残なものだった。表情から苦しみ抜いて亡くなったことが分かるほど、その身体は生前だけでなく死後にも付けられたような痕跡が残っていた。執拗なほどの傷に見せしめという言葉がよぎる。

エレナには見せたくなかったが、彼女が納得しないのは分かっていた。遺体袋から出さず顔だけ見せたが、ショックのせいで倒れかける彼女を抱き留める。

『大丈夫だ。俺が必ずエレナを守るから』

彼女を守りつつ自分も守る。それがどれだけ困難を伴うものだとしても――。

エレナが変わったのはそれからだった。


師匠がいなくなってすぐ侍女から毒を盛られたのに、平然としたエレナの様子に腹が立った。怒りを侍女に向けると庇うような素振りを見せ、冷静な指摘を返してきた。

わずか10歳の子供の言葉とは思えないぐらいで、幾度となく命を狙われことで感覚が麻痺しているのではないか。そう考えたこともあったが、実際のところエレナは自分の命に関心を払わなくなったのだということに気づいた。


『テオ、約束して。私を置いて行かないで。――死ぬ時は私を殺してから死んで』

濃い目の下の隈と疲労の濃い顔色でエレナが眠れていないことが分かった。恐らくは悪夢にうなされているのだろう。日当たりのよい庭でうたた寝をしていると思っていたら、自ら手を押えて飛び起きたが、微かに悲鳴が漏れていた。


縋るような目で訴えられて断ることもできずに、テオはエレナと約束した。その後安心したのかエレナは眠れるようになったが、時折不安そうに約束を覚えているかと口にするようになった。

エレナを安心させるための方便は、いつしか絶対に守らなければならない約束になった。


自ら戦場に向かうことも、戦争を停めるためにC国に輿入れすることもテオは反対した。それでも最終的にはいつもエレナの望みを聞き入れ、叶えることにしたのはいつか果たさなければならない約束を反故にするための免罪符にと無意識に思っていたのかもしれない。


ドールが消えて探ろうとするも侍女の監視が厳しく、焦燥感に駆られているうちに発見されたと連絡があった。エレナと同行することは叶わず、自室で待機しているとノックもなくカールの侍従であるフェイが入ってきた。

「お前に陛下暗殺未遂の疑いがかかっている。大人しく牢屋に入るなら、姫の安全は保障してやるけど、どうする?」


エレナに執着し始めているカールがそんなことを許すわけがない。冤罪で捕らえられれば二度と自由になれないことは明らかだ。目の前の男を倒して逃げる算段を一瞬で立てる。実行に移そうと重心を移動させると、にやついた笑みを浮かべた男は楽しそうに告げた。

「ああ、姫の安全というのは純潔のことな。一応まだそのつもりはないらしいけど、それくらいの罰は妥当だろう?」


いつか無理やり奪われてしまう可能性があることなど、テオもエレナも互いに分かっていたが口にすることは一度もなかった。覚悟していたことではあるが、自分の行動でエレナが傷付けられるなど到底許容できるものではない。

(牢に入れるだけならまだ殺すつもりはないということだ。俺はエレナとの約束を果たすまで、絶対に死なない)

勝ち誇ったフェイの顔を睨みつけるようにして、テオは大人しく従うことにした。


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