第4章 エレナ ⑪提案
「テオ、何があったか全部教えて」
「お伝えしています。いつも通り貴女がなさっているように処刑を執行しただけです」
何度問い質してもテオはエレナの質問に答えてくれない。テオを信頼しているが、額面通りに受け取れないのはあの男がまともな人間でないことを知っているからだ。
代理など認めず休戦を破棄すればかなりの嫌がらせになる。ただいつも通りの処刑などカールにとっては何の面白みもないだろう。
だがテオの口は固かった。その頑なさが余計にエレナを落ち着かなくさせるが、こうなったテオが譲ることはないことをエレナは知っている。
何故テオがそこまで口を噤んだか、その理由は翌日に判明した。
カールの侍従であるフェイが直接エレナの部屋にやってきて、お茶会に参加するよう伝えられた。
断りたいのはやまやまだが拒否権がないのはいつものこと。昨日はエレナ自身が刑を執行できなかったため嫌味の一つでも言われるのか、ペナルティが発生するのかもしれない。憂鬱な気分を抱えつつ、解毒剤を事前に飲み込んで素早く準備を整える。
案内されたのはいつもの庭園ではなく、カールの私室だった。
「エレナ姫、もう体調は大丈夫かな?」
「お気遣いありがとうございます」
ゆったりとした広さの室内は優美な装飾であるものの、窓以外の部分は書棚で埋められていて小さな書庫といった様子だ。だがそこにしつらえられた家具はどれも一級の品で、現在エレナが腰を下ろしているソファーも本来は座り心地がよいはずだ。
(何で隣?)
フェイがお茶の支度をしているが、他に妃の姿は見つからずカールと二人きりでソファーに横並びで座っている。この状態が良くないと察しているが回避する術がない。
「っ……」
声を上げなかった自分を褒めてやりたい。突然カールの冷たい指に顎を摑まれ、顔を上げさせられた。氷のような瞳はいつもより冷ややかで観察するかのように細められている。
「まだ本調子ではないようだね。愚か者にはもう少し罰を与えてやるべきだったかな」
感情の昂りが感じられない静かな声なのに、背筋に冷たいものが走る。
「エレナ姫、口を開けて」
先ほどまでの気配が嘘のように、カールはチョコレートを手にしてにこやかな笑みを浮かべている。
口にしたチョコレートは甘く、毒が入っているように感じられなかった。とはいえエレナが気づかないだけという可能性もあるため、油断はできない。
カールは手についたチョコレートを舐めとって、楽しそうにエレナを見ている。
「もう他の人間に余計なことはさせないから、安心して食べていいよ。ああ、処刑ももういいかな。エレナ姫の肌に傷痕が残るのは面白くない」
髪を撫でられる不快感に堪えている中でのカールの発言に、作っていた笑顔が凍り付いた。
「……陛下、私の願いを叶えてくださるのではなかったのですか」
戦争を停めさせるための代替案がなくなれば再戦を仕向けるのではないか。思わず両手に力が入り手の平に爪が食い込むが、痛みに集中することで冷静を保てる気がした。
「昨日のように君の騎士を代理に立てればいい。わりと好評だったようだし」
(好評ってどういう意味……)
そんなエレナの疑問を読みとったかのようにカールは続ける。
「君に蛇毒を盛った疑いのある侍女たちを素手で処刑してもらった。武器がないと即死させることが難しいのだけど、その分観客は喜んでいたよ」
即死が難しいという事はその分苦痛が長引いたということだ。テオが頑なに詳細を話すことを拒んだ理由が分かった。自分を殺しかけた相手を庇うつもりはないが、彼女たちとて命令に従わなければ命が危ない立場だ。非力な女性を素手で殺める非道な行為はどれだけテオの心を傷付けただろう。
「酷いですわ、陛下。愚か者の処刑は私にお任せくださったはずですのに、私よりテオのほうが優れているとおっしゃるのですか?」
拗ねたような口調で告げれば、カールの瞳に面白がるような色がよぎる。
「血に染まる君も美しいのだけど、こうやって愛でるのも悪くない」
腰を摑まれ引き寄せられる。反応を窺うカールをよそにエレナは顔を近づけ、耳元で囁いた。
「それなら遊戯をいたしましょう」
にこやかに微笑むエレナに少女のようなあどけなさはなく、蠱惑的な表情を浮かべていた。




