第1章 ラウル ②サポート
次の任務は別部隊のフォロー、<サポート>だった。負けがほぼ確定した戦場にわざわざ行くのは、これ以上の兵士を無駄にしないため。多少傷ついてもまだ戦える兵士を無駄死にさせないため、こちらの陣地まで連れて帰る<サポート>の仕事だ。
基本的に僕らの部隊は2人1組。基地を出てから無言で隣を歩くリッツとは以前も組んだことがあるが、もう少しお喋りな奴だったと記憶している。
何か言いたげな表情で僕を睨んでくるけれど、話すのも話さないのも彼の自由だろうと放っておいた。だがもうすぐ戦場に入ってしまうのだから、わだかまりは解いておいたほうが今後やりやすい。
「話があるなら聞くよ」
足を停めて呼びかけると、ますます眉間の皺が深くなった。
――余計なことをしたか、もしくは掛ける言葉が適切ではなかったか?
「……何で、そんなに平然としてるんだよ!」
答えを探していると、リッツは激高した様子で詰め寄ってきた。
だが余計に分からない。いつもと変わらないことに何の不都合があるのだろう。
「お前は本当に、自分のバディを、エリックを見殺しにしたのかよ!?」
やっと意味が分かった。なるほど、そういう話になっていたのか。
――ここ数日食堂で遠巻きに見られていたのは、それが原因か。
「どうなんだよ!」
「見殺しにしたわけじゃない。ただ助からないのは明白だったから、敵と心中してもらった」
トラップを仕掛け終える終盤で、敵に見つかったのは不運としか言いようがない。幸い相討ち状態になってくれたから準備は完了したものの、気づかれるのは時間の問題。
重傷者を抱えて爆発物だらけの戦場から抜け出すなんて芸当は、奇跡が何十回必要か分からない。状況と経緯をできるだけ丁寧に説明するが、表情はむしろ徐々に険しくなっている気がする。
「――もういい!お前がそういう奴だってことは分かっていたさ!…だけどあいつは俺の親友だったんだ。だから…」
リッツは言葉を切ると、何かに耐えるかのように唇を噛みしめる。
「任務は任務だ。……切り替える」
リッツも精鋭部隊の一員。任務が最重要、私的なこだわりを切り離すこともできないような人間を上官は配下に置かない。というか置いてもすぐに死ぬ。
――だから、何だったんだろう?
続きが少し気になったが、口にしない。きっと任務には関係ないことだ。
戦争は損失だ。命も物もことごとく壊す。一方で恩恵を得る者もいる。
I国とU国、2国間だけであれば戦争はとうに終わっていたかもしれない。
兵や物資が疲弊すれば、国として維持できなくなるからだ。この戦争に豊かな中立国、C国の干渉さえなければ。
だが時を戻すことはできないし、始まったことを終わらせるのは難しい。
『互いに犠牲を最小限にしながら勝敗をつけてはどうだろう』
中立国であるC国の提案、それは厳選した兵士12名を互いの中間にあるC国の領地で戦わせるというものだった。C国の提案を断れば角が立つかもしれない、両国ともそう判断したのも無理がなかった。
C国と敵対すれば自分たちの国など簡単に滅ぼされる。だがたった12人に国の存亡を託すことに躊躇いがあった。その躊躇いがさらなる悲劇につながった。
『一度の勝敗で一国の未来を決めるのはいささか早計というものだ』
ルールはシンプル。5日間で生き残った兵士の数で勝敗が確定する。戦勝国は一ヶ月分の税収を敗戦国から受け取る。
『払えなくなった時点で戦争は終わりだよ。平和的解決ではないかな?』
そして終わりのみえない戦争が始まった。