名探偵おねぇちゃん
妹の道着が盗まれた。
私の実家は代々古武術の道場をしている。今の家元は祖母だ。
古武術と言っても合気道に近いもので、いろいろと物騒な今の時代、護身術として良家の子女をメインターゲットに門下生を募っていた。
幸い我が流派は人気があり、女性限定の道場ながら多くの門下生を抱える事が出来ていた。
その人気の一端は私の妹にある。
まだ到底大人とは呼べない幼さでありながら実力に裏付けられた自信から凛々しい雰囲気を身に纏い、その神がかったバランスが危うい魅力を醸し出している。才色兼備とはまさに妹のためにあるような言葉だ。
顔立ちだけならそっくりなのだが何故か私は人気がない。別にいいけど。
そんなこの世の至宝とも言うべき妹の道着が盗まれた。
妹と共に修行を乗り越えてきた、妹の甘露のような汗の染みついた道着だ。犯人が盗みたくなる気持ちも痛いほど分かる。
分かるが、許す事は出来ない。
私は家元である祖母の命を受け、この事件の犯人を突きとめる事となった。
犯行時間は妹がシャワーを浴びていたほんの20分だ。妹がシャワーを浴び、出てきたときには消えていたらしい。
シャワーだけと考えると長めにも思えるが、妹は髪が長いため仕方がない。私は肩口でばっさり切ってあるのでそこまで時間はかからない。
調査の結果、容疑者は犯行時間にアリバイがなかった3名に絞られた。
「──しかし、3人とも証人こそいないが、それぞれもっともらしいアリバイを主張しているな。さすがの私もこれだけのヒントでは犯人を絞り込むのは難しい……」
悩む私を師範である母が睨みつけてきた。
「その前に、貴女はどうなの? 他の門下生の話には貴女は登場しなかったわよね。つまりその時間の貴女を見た人間はいないということになるのだけれど」
実の娘に対してこの言い草である。信用のないことだ。悲しくなってくる。
「お母様、お姉ちゃんは犯人じゃないよ」
しかし、ああしかしだ。
心優しい妹は愛する姉を擁護するため、母に抗弁をしてくれた。
「あら、どうして?」
「だってお姉ちゃん、その時間は裏庭に居たもの」
「……なぜそれをお前が知っているの?」
「窓越しに目が合ったから」
「……」
その後犯人は私を折檻する母の姿に恐れをなし、自ら名乗り出たのだった。
黄金の経験値という作品も書いています。
もしよろしければそちらもどうぞ。
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